世界では、子どもも、リーダーも、リフレクションを実践しています。
小学生のリフレクション
最初にご紹介するのは、オランダで4歳の子どもが行っていたリフレクションです。
– 過去3ヶ月を振り返り、最も誇りに思うワークは何か?
– なぜ、そのワークを誇りに思うのか?
– 一番苦労したことは何か?
– 次に同様のワークに取り組む時には、何を変えるのか?
2011年に、オランダの小学校を訪れた際に、4歳の子どもが、先生の問いに答えながら、リフレクションを行っている場面に遭遇しました。そして、4歳でもリフレクションができるという事実に、衝撃を受けました。また、日本の子どもたちには、リフレクションの機会がないことに、危機感を覚えました。そこで、まず、大人にリフレクションを広めようと決めました。
ティーチフォーアメリカのリフレクション
2010年から、NPOの活動にも参加しており、ティーチフォージャパンの立ち上げに尽力しました。この活動を通して、ティーチフォーアメリカからたくさんのことを学びました。
ティーチフォーアメリカは、ウェンディ―・コップが、1990年に立ち上げた団体で、アイビーリーグを卒業した優秀な学生を2年間、貧困地域の学校に派遣するというモデルです。
ティーチフォーアメリカの成長の歴史は、学習の歴史でもあり、経験を通して学んだことや、直面した課題に対処する中で得た知見をナレッジに変えていました。
その中の一つに、ティーチングアズリーダーシップという教員養成の指針があります。優秀な学生を採用しているにもかかわらず、成果を出せる先生と、成果を出せない先生がいることに気づいたウェンディは、リフレクションを重ねます。そして、出来上がったのが、教師のリーダーシップの定義です。リフレクションを行った結果、成果を出す先生の取り組みには、具体的な方法は違っていても、普遍的な法則があることが明らかになりました。
この法則が、教員養成に活かされることで、成果を上げられる教員を増やすことができました。
学習する組織のお手本のような取り組みですが、その根底には、ゴールを妥協しないクリエイティブテンションと、経験を学びに変えるリフレクションの力があることを確信しました。
※クリエイティブテンションとは・・・ビジョン(ありたい姿)と現状とのギャップを埋めようとする強い内発的動機。クリエイティブテンションが高まることによって高い創造性が発揮される。
金融資本主義についてのリフレクション
次に紹介するのは、クレイトン・クリステンセン先生のリフレクションです。母校ハーバードビジネススクールは、金融資本主義を創り上げた立役者という残念なイメージが強いですが、エンロン事件やリーマンショックを経て、現在では、教育方針も大きく変わっています。5年に一度開かれる同窓会で、クリステンセン先生のリフレクションを伺う機会がありました。
ビジネススクールに入学した当時は、まだ、スプレッドシートがなく、電卓を使って数値の計算を行っていました。当時、財務指標は、企業経営を支援するためのものであり、企業間の比較を行うために生まれました。
スプレッドシートが登場すると、管理職の仕事が、スプレッドシートの数値で管理されるようになりました。やがて、投資ファンドが投資先を評価するために、ウォールストリートのオフィスで、スプレッドシートを眺めようになります。
そして、経営は、アナリストのために、経営指標を公開するようになります。その結果、成果となる数値目標を達成することが、経営の使命になりました。
こうして、ファイナンスは、経営のものではなく、独立したシステムとして経営を支配することになります。
今、世界中で始まっている新たな資本主義の在り方、経済の循環の在り方にも、リフレクションが欠かせないと思います。
SDGsを創造したリフレクション
次に、もう一つ、経済学者ジェフリーサックス先生のリフレクションを紹介します。
彼がハーバード大学に経済学を学ぶために入学した年、1972年は、ローマクラブが成長の限界を世界に発表した年です。
そこで、ジェフリーは、教授に、成長の限界という課題について尋ねたそうです。その時、教授は、自信をもって「市場の原理が問題を解決してくれる」と云いました。
しかし、経済学者として活躍するジェフリーは、市場の原理は、環境問題の解決には役に立たないことに気づきます。
そして、国連が2000年にスタートするミレニアム開発目標(MDGs)の推進に尽力します。
しかし、MDGsの取り組みはあまりうまく行かなかったと言われています。そこで、国連と共にリフレクションを行い、スタートしたのが、現在、世界でその取り組みが加速しているSDGsです。
前回のMDGsは、国連が中心になり準備したために、実行フェーズへの移行に時間を要しました。そこで、今回は、実行の当事者となる企業やNGO、NPOが計画段階から、参画したそうです。
リフレクションが未来を創る力であることを示すとても分かりやすい事例ではないかと思います。
ドイツの国家戦略を支えるリフレクション
最後の事例は、ドイツ国家インダストリー4.0を生み出したリフレクションになります。
未来教育会議の視察でドイツを訪問し、ドイツの経団連にあたるBDIのプレゼンテーションを聴きました。その冒頭に紹介されたのが、このPPTです。
PPTには、世界トップクラスの情報通信企業の名前があげられています。
名前の横には、国旗が掲載されていて、世界トップクラスの情報通信企業の26社がアメリカの企業で、EUの企業は5社しか存在しないことが解ります。
これが、ドイツがインダストリー4.0を国家戦略に選んだ理由です。ドイツのリーダーたちが、10年以上かけて対話を行い、この現実を直視するリフレクションを経て生まれたのが、ドイツは、アメリカに勝つという結論だという説明を聴きました。
堂々と敗北を認めるドイツ人の強さと、10根に上の歳月をかけて国家戦略を構築するリーダーの忍耐力に、圧倒されました。
ドイツでは、もう一つ驚いたことがあります。
中小企業が、99.3%を占めるドイツでは、いかに中小企業で、インダストリー4.0を実現するかが最大のテーマです。
そこで、中小企業を対象にアンケートを行ったそうです。
その結果も、共有していただきましたが、中小企業の58.2%が全く準備できていないという答えでした。このほかにも、資金不足、人材不足等、様々な課題があることがあきらかになっていました。
最も驚いたことは、この厳しい状況に直面しても、彼らが、インダストリー4.0を諦めるという考えを微塵ももっていないことでした。
リフレクションを通して直視した課題認識から生まれたビジョンは揺るがないということも、大きな気付でした。
その後、ビジョナリーカンパニーを久しぶりに読み直し、ドイツのリーダーが実践していることが、とても上手に表現されていることに気づきました。
日本のリーダーにも、リフレクションと対話の実践が広まることを願って、活動を進めて参りたいと思います。