活動報告

ACTIVITY REPORT
実績 実績

オランダ、そして世界の教育に学んだこと

オランダのシチズンシップ教育

今回、最初にご紹介するのは、OS21のヒントにもなったオランダのシチズンシップ教育ピースフルスクールについてです。2011年にオランダを訪れ、ピースフルスクールに出会いました。2014年からは、日本でも、この教育を広める活動を進めています。ピースフルスクールは、佐賀県武雄市、神奈川県箱根町、北海道湧別町、福島県富岡町、NPO法人フローレンスで実践が始まっています。(幼児版、小学生版があります。ご興味があれば、ぜひご連絡ください!)

ピースフルスクールは、正義を守る市民を育てるシチズンシップ教育で、実は、OS21の子ども版です。(OS21は、ピースフルスクールの大人版とも言えます)

ピースフルスクールは、21世紀の義務教育指針として、2003年にOECDが発表したキーコンピテンシーの中では、カテゴリー2と3、「異質な集団で交流する」と、「自律的に活動する」の学習領域を対象としたプログラムです。

OS21のプログラム開発に際して、ピースフルスクールとOECDのキーコンピテンシーに、たくさんのヒントをもらいました。

 

 

オランダのピースフルスクールを日本に紹介する中で、これからの日本の社会と教育に大切なことが何かに気づく機会になりました。

教育の世界に入る前、私は、企業変革の推進に従事していました。そして、常々、日本の組織は、なぜ、組織全体の力が個人の総和よりも小さくなってしまうのか 疑問に思っていました。また、一人ひとりは、とても優秀なのに、他者に気遣い、調和を重んじ、同調圧力も強いため、イノベーションを生み出すチームのダイナミズムが生まれないことも、残念に思っていました。

そんな中で、高い市民力を持つオランダの子どもたちの育ちに触れ、日本の組織力を向上するヒントをもらいました。それは、対立は悪いことではないというマインドセットを確立すると共に、対立を乗り越え、話し合う力を高めることが重要ということです。

オランダの小学生は、民主的な社会は対立に基づくことを知っています。だから、お友達と意見が違ってもよいと考えます。また、民主的な社会に必要な主体性も育まれていて、小学生は、お友達の意見に「賛成」、「反対」、「解らない」のいずれかを理由を添えて述べることができます。また、対立は、けんかではなく話し合いで解決することを小学生の頃から練習しているので、小学校5,6年生になると、学校で起こるけんかの仲介役を担うこともできます。

オランダの小学生の様子から、OECDの提唱するキーコンピテンシーにおける「異質な集団で交流する」、「自律的に活動する」の本当の意味を理解することができました。そして、この2つが、日本に足りないものであるという確信を持ちました。

OECDのキーコンピテンシーが、その要とするリフレクションを、オランダの小学生は実践しています。人間をつくる上で、環境も教育もとても大切ですが、最終的には、自分が自分という人間を形成する責任を持つことになります。そのために、オランダでは、小学生の頃から、自らの行動や内面を振り返る練習を繰り返しています。この思想は、OS21にも、活かされています。

 

ハーバード教育大学院での学び

ハーバード教育大学院では、Future of Learning という研究会が2010年に始まりました。世界から教育関係者が集まり、未来の教育について探求する場です。研究会は、主催者である多重知能理論を提唱するハワード・ガードナー教授の「問い」から始まりました。テクノロジー革新やグローバル化の中で、学習の質向上の可能性、創造教育、多様化する社会の中での宗教や倫理教育の在り方等、様々な分野の専門家のインプットを基に、参加者同士がディスカッションを繰り返す場です。

Future of Learning で学んだことも、OS21の土台になっています。ハーバード教育大学院では、マインド、ブレイン、エデュケーションというプログラムがスタートしており、脳科学における研究を子どもたちの学びに活かす取り組みが進んでいました。ニューロサイエンス&ザクラスルームというHPに行くと、研究成果から学ぶことができます。

テクノロジー革新により、目覚ましい発展を遂げている脳科学の世界の中でも、1994年に、アントニオ・ダマシオ博士が発表した論文が話題を呼びました。ダマシオ博士は、150年もの間、脳科学者の研究の対象となっていたフィネアス・ゲージの頭蓋骨とMRIの画像を重ね合わせることで、感情と行動の関係を科学的に証明しました。

ダマシオ博士の研究を経て、「行動を“支配”するのは論理であり、感情は秩序を乱す邪魔なもの」という考え方から、「感情は、行動を“支配”するもの」という考え方に変わりました。

 

 

私たちは、経験から学ぶと言いますが、この学びに重要な役割を果たすのが感情です。

私たちが何かを決める際に、指針となるのが過去の経験です。人間は、自分の取った行動の結果を、その時に味わった感情から、知恵と愚行に区分して、知識として脳に蓄え、次の行動の指針にします。フィネアス・ゲージが、合理的な判断を下せなくなったのは、思考を支配する感情という指針を失ったからです。

この脳科学の発見に学び、OS21でも、経験のリフレクションだけではなく、経験に紐づく感情をリフレクションすることを大事にしています。

もう一つ、ハーバード教育大学院で学んだ大切なことがあります。それは、「ビジブルシンキング(思考の可視化)」という考え方です。ハーバード教育大学院が主催するプロジェクトゼロの中で行われている取り組みの一つです。

プロジェクトゼロは、子どもたちの思考力を磨くために、たくさんのフレームワークを用意しています。プロジェクトゼロは、良質な思考を支援するフレームワークを開発する際に、理解、真実、公正、創造性という4つの理念を掲げています。

プロジェクトゼロが開発したフレームワークは、世界中の教室に広がっています。Future of Learning に参加し、プロジェクトゼロのビジブルシンキングを実践している先生方に直接お話を伺う機会がありました。彼らは、フレームワークがあることで、良質な思考を習慣化し、教室の文化にすることができることが、その魅力だと語ってくれました。

ビジブルシンキングのフレームワークの一つが、OS21でもよく活用している、リフレクションのフレームワークです。学んだことを振り返り、その学びを通して自分の思考がどのように変化したのかを、簡単に言語化できるフレームワークです。考えが変われば、行動が変わるという学びの基本動作を、このフレームワークは、とてもシンプルに、ガイドしてくれます。いつでも、どこでも使えるとてもパワフルなフレームワークで、私も、日々活用しています。

 

 

ビジブルシンキングにヒントを得て、OS21の提唱する認知の4点セットが誕生します。

認知の4点セットの原型は、学習する組織のメンタルモデルです。私たちは、経験を通して、物事を意味づけ、判断の尺度を形成します。このため、私たちの意見は、過去の経験と、その経験によって形成された判断の尺度によって決定づけられています。

メンタルモデルに、脳科学の発見を加えました。過去の経験だけでなく、その時に味わった感情が、私たちの思考に大きな影響を及ぼしていることが理解できたからです。こうして、認知の3点(意見、経験、価値観)セットが、認知の4点セット(意見、経験、感情、価値観)へと進化しました。

そして、認知の4点セットをルーティンとして活用し、社会の文化にしたい!という思いで、プロジェクトゼロに倣い、フレームワークにしました。

 

 

ぜひ、皆さんも、認知の4点セットをルーティンにしてみてください。自分の考えや学びを、経験、感情、価値観に分けてリフレクションすることで、メタ認知力が高まり、リフレクションの質を高めることが可能になります。

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