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【イベントレポート】成人発達理論から学ぶリーダーシップ 「次世代リーダーのための成人発達理論講座」

人間の知性や意識はどのように発達していくのでしょうか。ハーバード大学教育大学院教授のロバート・キーガンが提唱する成人発達理論では、人間は成人以降も生涯にわたって発達し続けるとしており、自律型人材を育成する上で理解しておきたい理論です。今回はキーガンのもとで学んだご経験も持つ知性発達科学者の加藤洋平氏に、成人発達理論を中心とした人間の知性・意識の発達についてお話を伺い、様々な疑問にお答えいただきました。

■人間の意識構造の特徴

成人発達理論を理解する上で押さえておきたいのは「私たちの知性や意識は構造的に発達していく」という点です。意識構造とは、私たちの思考や行動を規定する、認識上の枠組みのことです。この特徴は、世界を見通すレンズで例えることができます。意識が構造的に発達していくということは、建物から見渡せる景色が二階から三階へと広がるようなものです。また面白いことに、景色の解像度も上がり、より微細なものを捉えることもできるようになるのです。
意識構造のもう一つの特徴は、知性や能力だけではなく、その器を扱っている点です。意識構造が成長していくほど、知識や経験を収集し加工する器の質が変化し、これまで消化できなかった経験が消化できるようになるのです。例えばある人の価値観がなかなか理解できなかったものが、器が拡張されることによって受け入れられるようになり、より深いコミュニケーションをとれるようになるといったことです。このように意識構造には、レンズと器という2つの性質があると思ってください。

■成人発達理論が注目される背景

近年、とりわけ企業組織を中心に成人発達理論への関心が高まってきています。それはリーダーシップの開発、すなわちリーダーの知性や能力を高めるためです。端緒になったのは10年ほど前、ハーバードビジネスレビューにおいて意識の発達段階に関する記事が掲載され始めたことです。ロバート・キーガンは『なぜ人と組織は変われないのか(英治出版,2014)』の中で、リーダーの発達段階が高度になればなるほど問題解決能力は高まり、より優れたリーダーになることができると述べています。キーガン氏と親交のあるボストン大学経営大学院教授のビル・トバートも『行動探求:個人・チーム・組織の変容をもたらすリーダーシップ(英治出版,2016)』の中で、ビジネス世界の複雑化にともない、企業のリーダーにはより高度な発達段階が強く求められていると主張しています。このような流れから、欧米の企業社会を中心に成人発達理論や理論を元にしたアセスメントを活用する組織が増えているのです。具体的には3MやMotorola、マッキンゼー&カンパニー、ハーバードビジネススクール、FBIやCIAといった国家情報機関など、アメリカの最優秀人材を集めた組織が積極的にこの理論やアセスメントを活用しています。

■成人発達理論の分類

成人発達理論は、学問分野では発達心理学に分類されます。発達心理学の基礎を築いた人に、ジェームズ・マーク・ボールドウィンがいます。彼の貢献の一つは、知性というものを単一的な尺度で見なかったという点です。それまで知性というと、IQのような一つの尺度で捉えられがちでしたが、彼はより俯瞰的な視点で眺めることによって、人間の知性には多様なものがあることを提唱したのです。教育関係の方は、ハーバード大学教育大学院教授ハワード・ガードナーの述べた多重知性論を思い浮かべるかもしれませんが、まさにここにつながる話をボールドウィンは100年前に提唱していました。この流れを組み、アメリカの思想家ケン・ウィルバーは、私たちの知性には多様な領域や種類があり、それぞれに深さや高度、発達段階があるということを示しました。私が在籍していた人材育成・人材研究機関のレクティカでは、こうした人間の能力や知性に注目してアセスメントを開発しています。
成人以降の発達理論として代表的なものをいくつか挙げますと、ロバート・キーガンの主体客体理論や、レクティカがモデルとして活用しているカート・フィッシャーのダイナミックスキル理論、ロバートキーガンの弟子だったスザンヌ・クック=グロイターの自我発達理論、私が長年支持していたオットー・ラスキーの構成主義的発達理論、ハーバード大学の医学部に在籍しているマイケル・コモンズの階層的複雑性モデル、日本語に徐々に翻訳されているケン・ウィルバーのインテグラル理論などがあります。
ここからは、ロバート・キーガンの理論に着目していきます。なぜなら、一つ目は日本の企業社会でも最も広く知られつつある理論であるから、二つ目は器や自律型人材と密接につながった理論を提唱しているからです。

■成人発達理論理解の重要ポイント

キーガンの理論を理解する時に大事なメッセージは「私たちの意識は主体から客体へ移行する弁証法的なプロセスである」ということです。主体とは、この世界を認識している私たちそのもの(認識主体)のことです。メガネをかけている人は、自分でメガネのレンズを見ることはできませんよね。同じように、一般的に今この瞬間の自分には認識できず、リフレクションの対象に挙げられないものが認識主体です。客体とは認識主体が認識できる世界のことです。リフレクションを重ねることによって「自分はこんな考え、価値観を持っていたのか」とそれまで認識できなかった自己の側面に徐々に気づけるようになります。こうして埋め込まれていた認識主体が徐々に客体化されていくというのが、ロバート・キーガンの理論の肝です。
もう一つの大事なメッセージは、「私たちの意識の発達は、主体の縮小プロセスかつ客体の拡大プロセスである」ということです。主体の縮小とはエゴへの囚われが減っていくこと、つまりより利他的な存在になっていくということです。客体の拡大プロセスとは、私たちの意識が発達すればするほど捉えられる世界が広がっていく、ということです。

■成人以降の発達段階

キーガンは、私たちの意識は一生涯を通じて発達していくとしています。そして成人発達理論では、意識は自己の軸と他者の軸、2つを行ったり来たりしながら発達していくと考えています。ここでは成人以降に相当する発達段階2以上を見ていきましょう。意識の中心が自己に置かれている発達段階2は「利己的段階」と言われます。リフレクションないしは経験を積み重ねていくことで意識の中心が他者に移り、発達段階3の「他者依存段階」に至ります。その次の段階は螺旋階段を登るように、また意識の中心が自己になり、発達段階4の「自己主導段階」となります。さらに意識が高度化していくと、発達段階5の「相互発達段階」へと到達します。発達段階は年齢によって決定されるわけではありません。皆さんの周りにも、年齢のわりに成熟していると感じる人や、逆に50代60代を迎えても子どものような利己的な振る舞いをしてしまう人がいるかもしれませんが、発達段階には個人差があるのです。
各段階について、詳しくみていきましょう。発達段階2の「利己的段階」は道具主義的段階とも呼ばれ、中学生くらいの反抗期の子どもたちが通過するという統計データもあります。自分の欲求や願望、関心などに支配されており、これらを満たすために他者を道具のように扱ってしまうこともあります。この発達段階の限界は、私の世界と他者の世界が真っ二つになっているということです。つまり目の前にいる他者がどんな気持ちか、どんなことを考えているかを理解することが難しいのです。
発達段階3の「他者依存段階」には成人人口の70%が属しており、社会の発達の重心はこの段階にあると言えます。段階3の特徴は、自己というものが他者によって定義されているという点です。言い換えれば、自分の価値観や意思決定基準・行動指針が、親や学校の先生、組織や社会の慣習の上に成り立っており、それら他者に従う傾向があるのです。この段階の限界は、自分独自の価値体系を構築できないという点です。
発達段階4の「自己主導段階」は、まさに自律型人材の要件に該当します。自分独自の価値体系を構築し、自分の物語を作ることができるという特徴があります。この段階にある成人は全体の20パーセント未満です。キーガンはリーダーとして活動していくためには、少なくともこの段階4まで到達している必要があるとしています。段階4は、自分の価値体系を作ることができる点では素晴らしいものの、相手の価値観を尊重し、対話を通じて自分の価値体系を客観視していくことはまだ難しい段階でもあります。仮に段階4に到達したばかりだとすると、自分の主張を批判された時に客体化が難しいため、自分そのものを否定されたように捉えてしまいがちです。
発達段階5の「相互発達段階」は成人人口の1%未満とされ、自分を構成するいかなるものにも同一化していないという特徴があります。つまり、自分の過去の実績や社会的な地位といった社会的構成概念から解放されているのです。そして自己の本質ないしはあるがままの自分を認識できるようになっています。自分の価値体系をオープンにすることによって、他者とより深く関わることができ、それを通じて自分の価値観を絶えず客体化し、再構築することができるのです。さらに他者とのコミュニケーションを通じて、互いの成長を促す触媒になることもできます。

■リーダーの発達段階

成人の中でも、特にリーダーに特化した発達段階の人口分布調査があります。これはアメリカの企業のうち6,500億円以上の企業15社に属す、マネージャーとエグゼクティブ層を対象にしたものです。興味深いことに、成人一般の人口分布では発達段階3が突出していましたが、リーダー層ともなると発達段階4の前後から正規分布がなされています。さらにエクゼクティブ層になってくると発達段階4を下回る人はいませんでした。この発達段階の分布は日本企業でもほとんど変わらないという調査もあります。
リーダーの職務階層とタスクの複雑性の関係について、カナダの経営学者エリオット・ジャックスは、職務階層が上がるほどタスクが複雑・高度化するため、階層にふさわしい知性を開発していく必要があるとしています。この理論から興味深い研究結果が出ているのが、FBIの事例です。リーダーが直面している課題に対し、能力が追いついていないという仮説が組織内であり、私の在籍していたレクティカが調査・検証を行ったのです。その結果、組織で求められている能力の複雑性と実際の能力には、各階層で大きな解離があることがわかりました。この溝を埋めていくために、レクティカがリーダーシップ開発プログラムを提案していきました。リーダーの能力を戦略思考能力、共同能力、部下の育成能力というように具体化し、アセスメントを開発・実施してリーダー開発プログラムを作っていきました。直近10年でFBIだけでなくCIA、NSAといった国家機関へリーダーシップ能力の測定・開発サービスを提供しています。私自身日本でもマネージャーとその部下の意識段階の測定を実施した経験があり、成人発達理論を元にしたアセスメントが、各界で実施されています。

■Q&A

ー 意識構造というのは、ビル・トルバートの著書『行動探求:個人・チーム・組織の変容をもたらすリーダーシップ』でいう「行動探求に出てくる行動論理(アクションロジック)」と読み替えてよいでしょうか。

加藤:まさにその通りです。ビル・トルバートの行動論理とは、端的には私たちが行動するときにその行動を規定しているもの、ないしは行動を生み出している真相的なメカニズムのことを指しています。その行動を規定しているものはまさに意識構造であり、同じような意味になります。

ー 主体から客体に移る過程を促進するものは、リフレクションのみでしょうか。発達支援のコーチングをする立場から、周囲からのフィードバックも有効ではないかと思っています。

加藤:そうですね。実は主体から客体への移行を促進する手法は、無数にあります。そのうちの一つがリフレクションですが、フィードバックもとても有効です。先にご紹介したように、私たちは自分の意識構造や行動論理を客体化することはなかなかできないため、外部の視点をフィードバックしてあげることは非常に優れた実践方法です。他にも、インテグラル理論の本で紹介されているシャドーワークやセラピー的な技法、メディテーションといった手法があります。

ー オットー・ラスキー著『心の隠された領域の測定』の邦訳続編を入手したいのですが。

加藤:痛いところを突かれましたね。1冊目は私が翻訳させていただいたのですが、続編の翻訳はお断りしてしまったので、申し訳ないのですが原書を読んでいただければと思います。

ー ロバート・キーガンの各著書に登場する「免疫マップ」について、紹介されているワークを実践することが発達段階の成長に役立つと理解してよいでしょうか。また、ワークはどの発達段階においても有用でしょうか。

加藤:免疫マップは、キーガンも主体から客体に移行するプロセスを支援するために作ったものですので、まさに有益な枠組みと言えます。免疫マップを作る過程では、いろいろと自身の行動を列挙していきます。そこから行動を生み出している背後にある自己の認識の枠組みをリフレクションしていきます。さらに、その枠組みを生んでいるものは何かと、どんどん深い自己探求を行うというフレームです。
どの発達段階においても有用かについて、実は私自身もキーガンに質問をしました。例えば発達段階2にある8歳くらいの小学生にとって、行動は列挙できても、背後にある認知の枠組みを捉えることは難しいのではと考えたのです。ですがキーガンによれば、対話による他者の支援があれば、子どもでも免疫マップを使うことはでき、実際にアメリカの学校現場でも活用事例があるということです。独力で免疫マップを作るには一定の内省能力が必要ですが、ファシリテーターのような他者の力を借りることで発達段階2の人でもマップを作ることはできるということです。

ー 一般論ですが、何かをマスターするとき、自身が実行できたという段階と、他者に伝えて相手も実行できたという段階があると思います。ある発達段階をマスターしたと本当に言えるのは、相手に伝えて相手もその発達段階におけることをできるようになった時なのではないでしょうか。

加藤:マスターという言葉にも段階があるのだと思います。同じ発達段階の中でも、体現する前の段階があり、自分がこれまで囚われていた認識の枠組み、価値体系に気づかされた瞬間がまず発達段階に到達したときで、相手の方にも伝えることができた時は、その発達段階をさらに深く体現できた時と言える気がします。マスターという言葉に限らず、構造主義的発達段階の特徴として、どんな言葉や実践にも深さがあるのです。

ー 発達段階の人口分布について、より詳細を教えてください。

加藤:これはロバート・キーガンの弟子にあたるスザンヌ・クック=グロイターが行った統計データで、厳密には3歳から65歳の合計数千人を対象にしています。性別や民族などの属性も偏りなくとったデータです。

ー 個人だけでなく、企業組織にも発達段階があるように思えます。中には倫理的にクエスチョンマークのついてしまうような企業もありますよね。

加藤:ここは私も問題意識を持っているところです。私たち一人ひとりの中に倫理観や道徳観があるのと同じく、企業としての倫理的発達段階やモラルの段階というのはあると思います。例えば不祥事を起こしてしまうような企業は、もしかすると企業という集合体としての知性、倫理の発達段階がそれほど成熟していないのではという見方もできます。あるいは企業の成員であるメンバーの発達段階にも左右されますので、エグゼクティブの方を中心とした道徳的知性というものも影響しているのではないかと思います。

ー レクティカのアセスメントは、どのような手段で測定しているのでしょうか。

加藤:アセスメントに関しては3種類あります。1つはロバート・キーガンの主体客体インタビューと呼ばれるもので、一般的に60分程度のインタビューを通じて発達段階を明らかにしていくものです。2つ目は先ほど言及した人口分布データを元に行われる、文章完成テストです。「リーダーとしての役割とは」「信念とは」など30個程度の文章の後を埋めていく、自由記述形式の測定方法です。最後はFBIの事例のように、特定のコンテキストにおける個別具体的な能力を測定するために、ケーススタディを元に文章を記述する形式です。企業でリーダーの意思決定能力を測定したい場合は、意思決定に際しよく想定されるケースを5問ほど取り上げて、数百字で回答してもらうといった内容になります。

ー 知性のレベルを測るときに、組織内で関わる人の数や部下のレベル、プロジェクト数など様々な要素があると思います。

加藤:そうですね。レクティカではプロジェクトのコンテンツの質や関わる人数をはじめ、諸々のことを考慮して課題レベル、タスクレベルというものを測定していくということを行っていました。

ー 発達段階を測定するときに、日や時間帯によって、あるいはその人のコンディションによっても差異が出るのではないでしょうか。

加藤:まさにカート・フィッシャーが述べているダイナミックスキル理論に通じるものですね。ダイナミックという言葉が表しているように、私たちが発揮する知性や能力はその日の体調や関係している人たち、協力者など様々な要素によって変動します。レクティカではその方が一番パフォーマンスレベルが高いような状態でアセスメントを受けていただくことを推奨していました。ただ、最後は受講者の方に委ねられていた部分でもあります。

ー ストレングスファインダーのように、自分の発達段階を簡易に測定できるツールはあるのでしょうか。

加藤:意識構造というものは、どうしても行動や発言の背後にあるものを特定していく必要があるため、少し手間暇がかかる手法を採用せざるをえません。簡易なものとして、ティール組織で有名になったスパイラル・ダイナミクス理論を提唱したドン・ベッグという方が作ったものはありますが、発達科学的な知見から見ると、信頼性や妥当性には疑問がつくアセスメントです。先ほどご紹介した3種類の測定方法の中では、自由記述形式が最も簡易なものになるため、少なくともこれくらいのツールは使っていたくのがよいかと思います。

ー アセスメントの結果を受け入れられるかどうかは、その人の発達段階にもよるのではないかと思います。発達段階が低いと、アセスメントの結果を受け入れにくいのではないかと思うのですが。

加藤:まさに、結果をどうフィードバックしていくかというのはアセスメントを作る時の大事なポイントの1つです。ご指摘の通り発達段階によってアセスメント結果に対する受け入れ方は全く違ってきますので、各段階の特徴を踏まえた上で言葉を選びながらフィードバックを行います。
例えば発達段階4の方は、自身のフィードバックにかなり客観性を求めますので、評価の数値を開示してフィードバックを行うことが多いです。一方とりわけ発達段階3の方の中には、これまでの学校教育によるテスト漬けによって、数値がそのまま自分自身を投影していると思いがちですので、あえて数値は開示することなく、どんなアクションをすれば次の発達段階に到達できるのかと定性的なところで対話を重ねていく場合もあります。また発達段階5の方も、あまり数値を言わなくても良い段階になっているので、あえて開示しないケースも多いです。

ー キーガンの発達段階モデルに、未成年者を当てはめることはできますか。中高生の教育に携わっていて、13、14、15歳でも発達段階3、場合によっては4に届いているのではと思う生徒もいます。

加藤:当てはめることはできます。年齢に縛られないという観点から言えば、これらの年齢でも成熟した意識段階を持っている人たちはいると思います。こうした人もいるということを踏まえて教育を提供していくということは大事ですよね。

ー 組織において、全員が発達段階5を目指すことが理想なのでしょうか。

加藤:答え方を選べば、イエスかつノーですね。イエスの部分については、私たち人間には内在的に成長意欲というものがあり、一人ひとりの可能性を開発していくという観点で今よりも高い段階に向かうことは大事だと思います。一方でノーという点に関しては、ケン・ウィルバーも指摘しているように、私たちの社会が本当に多様な発達段階で満ち溢れているからこそ成り立っていることを考慮に入れる必要があります。私たちの社会と組織を一つの生態系として捉えたときに、すべての人が段階5になるということは、例えるならば皆ライオンになるようなものではないでしょうか。それでは生態系は成り立ちませんし、怖いことだとも言えますね。

ー プレイヤーとしては優秀ながら、発達段階が上がらずにマネージャーに登用できないような人材について、どんな開発プログラムが有効でしょうか。

加藤:仮にご本人も会社もマネージャー登用を望んでいる場合、私のこれまでの体験上、コーチングやメンタリングと言った手法や、ご本人のボトルネックがどこにあるのかを把握するためにアセスメントを導入するというプログラムが有効かと思います。

ー その場合に、環境要因を変えるという打ち手は有効でしょうか。

加藤:それも大変大事だと思います。成長が停滞しているときに、環境や役職を変える、あるいは環境を整えるということが大きなレバレッジポイントになることはあるからです。

ー 発達段階が上がっていくことは、良い方向に向かっているということなのでしょうか。

加藤:ここは本当に大事な点で、発達は一概に善なるものではないんですよね。発達段階が高度になればなるほど、直面する課題も複雑になっていきます。キーガンもよく言っていることですが、高度な発達を実現するときに大事なのは、適切な課題に取り組むことと、それを適切な支援のもとで取り組むということです。私たちの社会を見ると、発達段階3に移行するシステムとしては義務教育がありますが、発達段階4や5に移行する新システムというのは正直、極度に欠落しているんです。そうした中で発達段階を上げる機運ばかりを高めてしまうと、高度な課題に直面しても適切な支援がないわけですから、トランスパーソナル的なトラウマ、高度な発達課題に苛まれてしまう可能性があります。ですから安易に段階が上がっていくことが良いとは言えないわけです。このときに大事なのは哲学の研究を参照することです。成人発達理論を活用するときには、発達にまつわる道徳、倫理的な側面を合わせて探求することが大事かと思います。

ー 関連して、発達段階3から5に早くジャンプさせるようリードすることに課題はありますか。

加藤:発達段階をスキップすることはできません。カートフィッシャーの言葉で、slow wise betterというものがあります。端的にいうと、発達というのはゆっくりであればあるほど望ましいということで、これは忘れてはいけないことですね。現代社会はどうしても早い成長を突きつけますが、そのストーリーに抗い、絶えずゆっくりだが着実にということを意識する必要があると思います。なぜなら、ピアジェ効果でも示されるように、発達の高度化を急がされた場合、後に発達がピタリと止まってしまったり、退行してしまうといったことも起こりうるからです。それぞれの発達段階の性質やその人が置かれている状況を理解した上で、支援を提供していくことが大事ではないかと思います。

ー 組織内で、人は良いけれど仕事が遅かったりミスが多かったりする、あるいは仕事が早く新しいことに次々チャレンジできるがコミュニケーション能力が欠けている、といったような特徴ある方たちは、発達段階においてどのように分類しどのような段階を上げていけば良いでしょうか。

加藤:冒頭の方でお話しした、多重知性理論につながるお話ですね。インテグラル理論の言葉には多様な知性のタイプというものがあります。タイプには内向型・外向型や、クリエイティブ型などといったものがあり、人を発達段階のレベルとはちょっと違う軸で包括的に見る指標となりますので、こうした視点で見ていくことが重要です。また先ほどの人は良いけれど仕事が遅いといった方は、感情的知性とは関係なく何か発達障害的なものがあるのかもしれないなど、別の観点でも見る必要もあるかもしれません。複数の目でその方を見ていき、支援していくことが大事ではないかと思います。

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