21世紀学び研究所は、「VUCA時代のチェンジメーカーズ ~チェンジのためのアイデアとツールを知る・使う・学び合う~」をコンセプトにイベントを開催しています。
第7回は、組織を生態系として捉え、独自のフィロソフィで組織づくりを進め、事業を成長させてきた2人の経営者にお越しいただきました。
株式会社ツクルバは、ITを活用したリノベーション住宅の流通プラットフォーム『cowcamo』とシェアードワークプレイス『co-ba(コーバ)』を主力事業に実空間と情報空間を横断した場づくりを行っています。代表取締役COOC中村真広氏は、CEOの村上浩輝氏と8年前にツクルバを共同創業し、2019年7月には東証マザーズ上場を果たすなど話題になっています。株式会社CRAZYは、完全オーダーメイドのウェディングでは業界最大規模となる『CRAZY WEDDING』など、『世界で最も人生を祝う企業』をビジョンに掲げる企業。お客様の生まれてから今日までの人生のストーリーを深く知り、編集することでイベントを作り上げていくスタイルで、唯一無二の場づくりを行なっています。
いずれも創業から7、8年という2社の、組織のあり方から個人の内面と組織づくりの関係性、これまでにさまざまな体験談、組織の成長の原動力について話を伺いました。
<INDEX>
1. 株式会社ツクルバの組織づくり
2. 株式会社CRAZYの組織づくり
3. インナーコミュニケーションの重要性
4. 自律型組織づくりのこれから
5. 自分を深く知るためのツール「リフレクション」
1. 株式会社ツクルバの組織づくり
中村:ツクルバは約4年半前に『cowcamo』を立ち上げた頃から、スタートアップ的な成長を始めました。組織や事業の規模が拡大していく中で、成長しながらどうやって「ツクルバの文化」を育てていけるのか、随分試行錯誤しながらやってきました。経営コンセプトの1つに掲げている「コミュニティ経営」はその文化の一側面を表しています。コミュニティ経営というのは、会社を事業体としてだけでなく共同体としても捉えること、その2つのバランスをとっていくこと、と定義しています。事業体というと従業員・顧客・株主というワードで説明されて、それぞれと経営が向き合うような関係性として捉えられますよね。それに対し共同体の観点では、集う人たちをメンバー・ユーザー・サポーターと表現していて、ともに前を向く関係性を意識しています。それぞれは、我々のミッション・ビジョンといった旗印に集まった「ムーブメントの仲間」というニュアンスです。
パブリックリレーションズとして、各ステークホルダーに極力1つのストーリーのもとで話をすることを心がけています。メンバーにはミッション・ビジョン、ユーザーにはサービス、サポーターにはIR情報が必要なわけですが、必ずベースに置くのは「なぜ、僕らは『「場の発明」を通じて欲しい未来をつくる。』ことをやり続けるのか」という「Why」の部分のストーリーです。
このWhyについて、実は僕自身、やっと最近言語化できるようになりました。この1年半ほど個人的にインナーテクノロジーと言われるものを活用し、自分の内面や過去の体験を深く掘り下げてきたのですが、自分の心に向き合ってみると育った環境に行き当たったんです。僕は2世帯住宅の中で両親、祖父母の大人4人に囲まれて育ちました。一人っ子で可愛がられましたが、僕は子供扱いされているという思いが強くて、自分は不自由十分な存在だ、もっと十分な存在になりたいと思っていたんです。だからこそ、その裏返しで「人がその人らしくいられるために場を作りたい」「場には人生を肯定する力がある」と考えたのだと気づきました。ツクルバのミッション「Why」のストーリーは、創業者である僕自身のテーマと重なるんです。
一方で、我々にとって組織と向き合う上での課題は、コミュニティ経営的な自律型の組織マネジメントの考え方と、事業的組織適合的なマネジメントの考え方をいかに両立させるかということです。事業体として売上・利益をつくっていくことは当然求められる一方、メンバーが自分自身の想いからアクションできるようになって欲しい。矛盾を抱えているようにも見えますが、そのために組織の根本に多様性や、自分らしさを解放できる安心安全な感覚を持たせたいと思っています。
コミュニティというのは、案外、最初は合理的でないところから生まれるものだと思います。僕たちの考え方の根本には、創業一つ目の事業であるシェアードワークプレイス事業の『co-ba』というものがあって、ここではあまり社内外の人間を分け隔てずにつながっていました。組織が成長した今、蓋をあけると以前co-baの会員だった人が、現在ツクルバのCFOをやっていたり、かつての入居チームがベンチャー企業として成長して一緒にお仕事をさせていただいたりしているんですよ。社内外を横断して事業のタネが育っていることは結構あって、ビジネスになっているものもあります。そうして育っていったものが養土になって、また新たな事業のタネが育っていく。目的とアプローチが明確に対応するわけではない「未分化な状態」を許容するところから、こうしたコミュニティならではのサイクルを生み出していきたいですね。
2. 株式会社CRAZYの組織づくり
森山:僕たちの企業のビジョンは『世界で最も人生を祝う企業』です。法人が迎える周年パーティーや総会などの節目や、個人の人生を祝うためのウェディング事業を行なっています。「誰よりもあなたを知り、あなたを祝う」というのが僕のお祝いの定義です。なぜお祝い屋をやっているのかというと、人間が一番嬉しい瞬間というのはきっと、豪華な食事や車をプレゼントされたときではなく、本当に自分のことを知ってもらえていると思える時だからです。結婚や何かの節目は、最もその人を知ってもらえるきっかけになります。だから「なんで僕のそんなところまで知っているの?」というところまで僕たちが相手を知り、世界で最も祝っている、そんな会社になりたいんです。
僕たちが発揮するバリューとして『本質的で、美しく、ユニークに』を掲げています。僕はもともと組織コンサルをやっていたこともあって、組織においてミッションやバリューはものすごく大事だと実感しているので、1年くらい世界中を旅しながら言葉を紡ぎました。本質的であるためには、どんな問いを持つのかがとても大事です。「ビジネスにおいてどう儲けるのか」というのも大事な問いですし、「我々はどう人間的であるべきか」「顧客の人生を変えるために何ができるか」というのも正解のない大事な問いです。ただ、本質的なだけでは真面目すぎたり、説教じみたりして人に伝わらないことが多いのも事実です。そこで大事にするのが美しさ。人としての生き方、あり方や言わなくても伝わるようなデザインを大事にしています。そして我々しかできないやり方で届ける、というユニークさを意思決定の軸にしています。
僕の経営の優先順位は創業から変わっていません。まず「健康」が第一。次に「人間関係」を大事にし、3番目に「世界を変えるビジネスをすること」、4番目に「誠実な経済活動をすること」です。あと僕は、利益だけではなく売上が大事でもあると思っています。なぜなら売上は世の中からの委託金で、それを分配していくというのは、世界に対する参画活動だからです。誰にお金を払うか、どういう人たちと共同体を作って何を共有するのかを考えることになるからです。まさに、中村さんがおっしゃっている、コミュニティを作ることだと思います。1兆の売上があって、利益が10%だとすると、世の中に9,000億の投資ができ、コミュニティが作れるという発想です。
僕たちは独自の社内制度を実施しています。まずは「LIFE PRESENTATION」という、新卒・中途関係なく入社する人全員が自分の人生を全社員の前でプレゼンテーションをする制度です。なぜ自分は今ここにいるのか、どんな人間で、これから何をしていきたいのか、簡単にいうと全社員がTEDのような雰囲気でプレゼンするんです。なぜこれをやるのかというと、まずメンバーに明確な意志がない限り自律的な組織は成り立たないからです。事業が会社ありきで進むのではなくて、個々人がギルド的に集まっている集団でいたい。そのために、あなたの意志を見せてくださいという場なんです。
他にも創業から7年間続けている毎日自然食のランチをみんなで食べる制度や、「GREAT JOURNEY」という1年ごとに長期で旅に出て良い制度、社内制度にも関わらずこれまでで一番話題になった、1日6時間以上寝ると100円相当の報酬がもらえるという睡眠報酬制度など(笑)。こうして面白い働き方や生き方を提案しながら何がしたいのかというと、人々がちゃんと自分の人生を生きることを応援したいんです。顧客にもそうしたサービスを提供したいから、まず社員や僕自身がそうであろうと思って取り組んでいます。
3. インナーコミュニケーションの重要性
熊平:お二人の組織は、考え抜かれたミッションやビジョンがあるところや、メンバーの個々の自律を促し尊重するところが共通点ですよね。中村さんは最近ご自身がインナーの世界に入ったとのことですが、そのきっかけや組織への影響はどんなものでしたか。
中村:きっかけは、家族との関係性を考えたことですね。なんでこの場面で怒ってしまうんだろう、嫌だと思うんだろうと考えていくうちに、プライベートだけでなく仕事でも、自分の内面にアクセスして何に痛みを感じているかがわからないと、先に進めないなと思うようになりました。1年以上かけてWhyの部分にたどり着けて、ツクルバのメンバーの前で心理的にすっぽんぽんになったので、メンバーも「これだけオープンにしていいんだ」と安心したとは思います。僕が経験したのと同じように、各々にとっても自分と他者との向き合い方を深めてもらいたいなと思って、インナーと向き合うことや、対話的なコミュニケーションについてメンバーにも体験してもらえる機会を設けています。
熊平:森山さんは「LIFE PRESENTATION」という制度で、全社員が個々の内面を深掘りするきっかけを作っていますよね。
森山:そうですね。プレゼンの場は、かなり感動しますよ。見ている側も自分がかつてプレゼンした時のことを思い出すので、研修効果もあります。なぜ全員やるかというと、私たちの根幹事業であるウェディングプロデュースという仕事がそういう仕事だからでもあるんです。自分自身が深掘りできていないと、相手のことを深く聞いてプロデュースすることはできないです。
中村:ツクルバもお客様の住まいに関わる事業をしているので、まず僕ら自身が自分に向き合う必要というのはあるし、実際少しずつ取り組んでもいるんです。でも、CRAZYさんのオフィスに遊びに行かせていただいた時、プレゼンの深堀り具合が断然違うなと思いました(笑)。もっと見習っていきたいですね。
森山:法人向けにイベントのプロデュースをする場合には、イベントの場で経営者にプレゼンをしてもらいます。どんなコンテンツを設けるよりも、一番意味があると思いますね。自分を探求していくことって、これからの100年時代、自律型組織には不可欠だと思います。トップとしては統制できた方が楽なことも多いし、統制が必要な部分ももちろんあります。ただよりクリエイティブな集団でいるためには、個々人が自分自身に目を向けることが不可欠でしょうね。
熊平:自分の内面に向き合うこと、それをオープンにすることは、とても勇気が要りますよね。でもそうしたいと思う人は増えている気がしますし、お二人はそのモデルになっていらっしゃると感じます。
4. 自律型組織づくりのこれから
熊平:自律型組織を作っていくにあたって、想定外だったこと、自分の意図と違ったことはありますか。
中村:今、組織でメンバーを巻き込んで会社の在り方についてビジョニングをしているんですが、あることをメンバーとシェアするタイミングが遅れて、すでに案の輪郭が見えた状態だったんです。そうしたら「僕らが入っていく余地どこにあるの」「なんでもっと早く言ってくれなかったの」と、かなり物議を醸したんですよ。その時もっと早くから頼ればよかった、ごめんって思いましたね。でも、100%うまくいく方法論なんてどこにもないなと思いますね。
森山:まさにそう思いますよ。僕たちは今新しいプロダクトを大きくしようとしているんですが、事業戦略と組織戦略の2つがうまく融合しないことはあって。最初は事業戦略、いわゆる計画を立ててビジネスとして成立させることが非常に重要なフェーズなので、そういうことを考える人も取り入れて企画していきました。その後、組織戦略をメンバーと考える時になって、急に給料とか環境面の不満が噴出してしまって。戦略や事業の仕組みの理解が追いつかず、エンゲージメントが測れなかったんです。自由な風潮でやっている組織な分、いかにも企業っぽい説明を嫌がる雰囲気もあったりして中々説明できていませんでした。事業戦略と組織戦略の狭間で、揺らぎますね。
中村:揺らぎながらも、それを許容していきたいですよね。自己組織化と事業適合って、一見矛盾するじゃないですか。でも、陰と陽を行き来しながらバランスを取りたいること、組織の動的平衡を見ることが大事かなと。
森山:まさに動的平衡。組織の中で人間は常に動いていますもんね。例えば、事業を成長させたいからと意見の強い人を入れると、それまでのメンバーは面白くない。でも事業を大きくしたい気持ちは同じだし、そういう人が入ってくるからこそ成長する部分がある。こういう時、どうしたらいいかという方法論なんてないなと思います。人を新しく入れたり調整したりする限り矛盾は生じますし、矛盾をどうエネルギーに変えるかですよね。
中村:揺らぎを作るのも、マネジメントの重要な要素ですもんね。
熊平:動的平衡という言葉が出てきましたが、お二人とも組織を生態系のように捉えていて、自然の成り立ちを組織のモデルにされていたり、組織づくりのための言葉をすごく綺麗に選んでいらっしゃるのも共通だなと感じました。
森山:僕たちは今まで3回、それぞれ会社にとって大事なタイミングで創業の地である南米のパタゴニアまで行っているんですけど、インスピレーションって、空や緑や、場から得られるものなんですよね。私たちも自然の一部で、自然の中に一番緩やかな答えがあると感じます。何か困った時、考えなきゃいけない時には自然の中で歩いていると、本質的なことを考えられる気がしますね。
中村:僕も去年屋久島に行ったんですが、都会の方が多くの情報を得られるように見えて、実は自然から得られる情報もとても豊かなんだなと思ったんです。本当は僕たちも自然の一部なんだって感謝する力も生まれてきました。人間社会の枠組みだけで捉えると、ビジネスもとても狭いものになってしまうので、もっと自然社会、地球社会のためのビジネスをやらなきゃいけないなと思いますね。
熊平:最後に、自律型組織に向かうみなさんにアドバイスをいただけると嬉しいです。
中村:自律的な組織は自律的な人から始まると思っていて、特に自分で自分をアンインストールできる人は強いと思うんです。僕自身がやっていてよかったと思っているのが、4年に1度くらいのペースで新規しいアクションに取り組んで、アウェーな領域に身を置くことです。やったことのない領域のアクションだとそれまでの、常識が通用せず知識やプライドを捨て去らなければならないので、強制アンインストールすることになるんですね。そういうアウェーを楽しめる人は強いと思いますね。
森山:素晴らしいですね。OS21を入れるためには、まずOS20をアンインストールしなければならないですもんね。人生にもOSってあると思っていて、僕の場合は今OS CRAZY 7期というのがありますが、まずはこれをしっかりアンインストールするところからやりたいですね。
自律型組織はすぐにできるものではなくって、意外と地味だと思っています。自分の組織をどう理想に近づけていくか考えたら、数年単位で腰を据えて、1つずつ積み重ねていく必要があると思うし、その前提には深い覚悟が必要です。2年後、3年後にもできるか、と僕自身も問い続けながらやっていきたいと思います。
熊平:ありがとうございました!
5. 自分を深く知るためのツール「リフレクション」
熊平:私たちは、自律型組織を作るためには個人が自律していなければならないと思っています。お二方のお話にもあったように、自律のためには自分自身を深く知ることが必要です。OS21のリフレクションは、自己理解を深めるために使うことができます。何かみなさんが意見を持つ時、実はその背景にひもづく経験があって、経験や記憶はそれぞれの感情とつながっており、根底には自分自身の価値観があります。こうして自分が何を認知しているかを自覚し、何を大事にしている人間なのかを理解できるのが、認知の4点セットを使った「リフレクション」というメソッドです。
お二人にも認知の4点セットで、今日の場を振り返っていただきましょう。
森山:僕は今日の話を聞いて、自分の内側にあるパーソナルな感情をもっと探っていきたいなと思いました。なぜかというと、自分の内面を周りに開いていった時に、みんながつながっていく感覚を知りたくなったからです。そこにはつながり、本音を共有したいという感情があると思います。人と人とでつながって、会社、建前、理性を超えていきたいという価値観があるから、こういう思いが出てきているんでしょうね。
中村:僕は自分の中で矛盾を統合する強さを持ちたいなと思いました。なぜかというと、ツクルバが成長する過程で、僕自身が代表らしくならなければとか、自分で自分の枠を決めて苦しくなった時期があったからです。その時は、自由になれていないという、視界がくもりがかったような不安な感情がありました。対立するものをメタに捉えることによって、弱い自由ではなく強い自由を得たいという価値観があると思います。
熊平:ありがとうございます。私たちの使っている日本語では、相手になぜそう思うのか、という意見の背景をあえて聞かないことが多く、必然的に自分で考える機会も少ないです。ですが意見の背景を知ることが、自分自身をディープラーニングするために必要です。まずは自分自身をリフレクションし、俯瞰してみること、そして、対話を通して他者の価値観を学んでいく、多様な世界を自分に取り込んでいくというステップが自律型人材には必要不可欠だと思います。みなさんもまず第一歩として、自分をより深く知るためのリフレクションを活用してみてください。
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