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【第2回イベントレポート 】ヤフー人事に学ぶ「1on1」~対話とリフレクションで自律的な人を育てる~

21世紀学び研究所は、「VUCA時代のチェンジメーカーズ ~チェンジのためのアイデアとツールを知る・使う・学び合う~」をコンセプトにイベントを開催しています。
 
第2回目として、9月28日に「ヤフー人事に学ぶ「1on1」~対話とリフレクションで自律的な人を育てる~」を開催しました。ゲストは、ヤフー株式会社(以下、ヤフー)採用・育成部 人財育成リーダーの小金 蔵人氏です。「6,000人の成長を支えるヤフーの1on1」というテーマで、企業経営者・人事・外部パートナーともに参考になる、1on1導入までの背景・実情・導入のポイント、1on1の肝について共有いただきました。
 
また同社の1on1推進にあたり、2016年からは21世紀学び研究所のノウハウも活用いただいています。そこで後半では21世紀学び研究所代表の熊平より「1on1の効果を最大化するためのOS」というテーマでお話しします。
 
<INDEX>
1. ヤフーは1on1をなぜ導入したのか(ヤフー株式会社 小金 蔵人氏)
2. ヤフーの1on1の進め方
3. 導入のポイント
4. 1on1の本質とはなにか、なぜ必要なのか
5. 1on1に必要なツールとはなにか(21世紀学び研究所 代表 熊平美香)
 
 
1. ヤフーは1on1をなぜ導入したのか(ヤフー株式会社 小金 蔵人氏)
 
小金氏:1on1というのは、1on1ミーティングの略で、上司と部下が1対1で行うスタイルのミーティングのことです。職場でも既に導入したり、導入を検討している方も多いかと思います。ヤフーではどのように行っているかというと、頻度は週に1回程度、時間は30分程度。リーダー(課長クラス)とメンバー間だけでなく、部長とリーダー、経営陣と各事業部長など、あらゆる関係性に対して実施しています。大事なのは、週1”程度”、30分”程度”ということです。ガイドラインはありますが、部下が多い部署や、部下が兼務所属の場合などについては時間や頻度を調整したりと、柔軟に実施してもらっています。

導入に至った背景は、2011年にまで遡ります。ヤフーは当時設立15年ほどで、そこまでは勢い良く増収増益を続けてきました。しかし、15年目あたりから成長が少しずつ鈍化していたんです。iPhoneの登場でPCメインのサービスをスマホに移管する必要が出てきたりと、世の中の変化への対応も求められていました。しかし社内の風通しはあまりよくなく、全体的に余裕のない雰囲気があったんです。そこで、前社長の宮坂を中心に経営体制を刷新することにしたのです。
Yahoo! JAPANのミッション・ビジョン・バリュー
 
この”第二の創業”で、まず会社のミッションと、バリューを打ち出しました。ミッションは「課題解決エンジン」になること。課題先進国と言われる日本の課題を解決し続けようというものです。ビジョンには「UPDATE JAPAN」というものを掲げています。日本をアップデートするきっかけになるような会社になろう、ということです。
これらを実現するため、経営戦略の1つとして、ヤフーは「人財開発企業になる」というコンセプトを打ち出しました。サービスそのものや利益だけに主眼を置くのではなく、働いている人の能力を最大限引き出し、成長を促すことを重視する。個人の成長が会社の成長にもつながっているような企業になる、ということです。「社員の才能と情熱を解き放つ」と我々は表現しています。
 
では、どうやったら社員の才能と情熱を解き放てるのでしょう。ここで社員1人1人に必要なのが「経験学習」だと我々は考えました。突然ですが、皆さんはご自身がこれまでで1番成長したなと思うのは、どんな時だったでしょうか。おそらく、実際に大変な状況に直面したり、何かを”経験”しているときだったのではないかと思います。大人の学びの70パーセントは直接的経験であるといわれています。また、経験からの学びをわかりやすく可視化したものとして、デービッド・コルブ氏の提唱したモデル「経験学習サイクル」が有名です。このモデルで示されている重要なことは、大きな学びを得るためには、ただ経験して終わるのではなく、内省(振り返り、リフレクション)→学んだことの概念化→次のアクションの実践、というサイクルを回すという点です。実は1on1は、この経験学習サイクルを回す上で最適な方法です。特に重要な「内省」と「概念化」を、上司が部下に対して促進できるモデルなのです。
 

2. ヤフーの1on1の進め方
 
小金氏:まず1on1をやるにあたっては「部下のための時間」だという前提があります。先ほども言った通り、部下の振り返りを促し、次へのアクション、成長につなげる時間であって、上司が一方的に指摘をしたり、目標達成のことだけを話す時間ではないということです。
 
では1on1で話していることはどんなことでしょうか。ガイドラインとして話をしているのは、まず直近1、2週間の出来事を聞くこと。その中でよかったと感じることや、悩んでいること、困っていることがないかをヒアリングします。後半に仕事の進捗確認、目標の再確認もしますが、優先順位はあまり高くありません。毎週進捗や目標のことばかり1対1で話されるのって、結構嫌なものだったりするんですよね。ですので、あくまで1on1は、内省支援をメインで行う時間にしています。
半期に1度など、特定の時期には目標設定の話や、部下の中長期キャリアの話、そして会社の戦略の話もします。部会やリーダー会など集団で共有されたことを、改めて個人的にも話をして、浸透させているんです。こうして、会社のビジョンやミッションと個人のキャリアが接続されるような時間にしています。実際は真面目な話ばかりではなくざっくばらんな話もしますし、他にもテーマを織り交ぜながらやっています。
 
実際30分間をどう使うかについては、①テーマやゴールを決める②部下の話を聞き、観察する③部下の経験から得たことを引き出し、今後の計画を確認、次のアクションにつなげる④必要なサポートの確認 という4つのステップでガイドラインを作っています。この中では、ほとんどを②の傾聴の時間に使うのがポイントです。そして最後には「今日も話してくれてありがとう、引き続きよろしくね」という感謝と労いを伝えます。初めは、いかにもわざとらしいという声も上司の人から聞かれますが、まずは基本の型をやっていただくことが大事と考えて、愚直にやってもらっています。
 
では上司が1on1をする上で、必要なスキルとはなんでしょうか。私は「コーチング・ティーチング・フィードバック」という3つのスキルが必要だと考えています。コーチングは、相手の経験や気づきを、質問を通じて引き出すこと。ティーチングは相手が知らないことを伝えること。フィードバックは、自分から相手がどう見えているか率直に伝達すること。これを、部下の表情などを見ながらピッチャーが球を投げ分けるように繰り出している力が必要です。その際に共通する能力は、相手を観察する力。例えば、今耳の痛いフィードバックをするとかえって逆効果になりそうだからやめよう、ということを、観察した上で判断し、会話のボールを投げる必要があるということです。
 
 
3. 導入のポイント
 
小金氏:1on1を組織で導入するには、いくつかポイントがあると考えています。
 
(1)自社の目的を持つ
 
1on1を「他社でもやっているから取り入れてみよう」という動機で始めるのはおすすめできません。効果を生むためには、自社なりの目的を持って取り組む必要があります。先ほどお伝えした通り、ヤフーも「人財開発企業になる」ことを決めたからこそ、その手段として1on1をやってきたのです。
 
(2)組織のトップが共感し、本気で変革にコミットする
 
1on1を導入するにあたっては、まずは組織のトップがその必要性を理解し、メンバーに伝播することが重要です。1on1というのは人材開発の手法であると同時に、組織開発の働きでもあります。組織開発を成功させるための絶対条件は、その組織のトップが本気で変革を起こそうと思い、実行に移しているかどうかです。企業を変えたければ企業のトップである代表がコミットする必要がありますし、部を変革したければ部長が、プロジェクトチームを変えたければチームリーダーが、意思決定をして実行することが大事です。ヤフーの場合も、2012年の本格導入の際は、社長や副社長がまず率先して役員など自分の直下の部下と1on1をしていましたし、現在社長を務めている川邊も1on1を大事にしています。
 
(3)社内の施策と連動させる
 
連動させるには、いくつかのパターンがあります。まず、1on1の質そのものを改善する施策と組み合わせる方法。ヤフーでは1on1質向上サイクルと呼んでいますが、週1回程度の1on1がきちんと実施されているか、内容が伴っているかを、アセスメントで定期的に確認します。ここでは部下から上司に対する評価項目があり、そのスコアが上司にフィードバックされるようになっています。スコアは、上司のさらに上司も一緒に確認し、「できているつもりだったが、できていなかった」というギャップを解消していきます。ギャップがある場合は、本人ももっと学ばなければという渇望感を持つんです。この感覚を元に、コーチングやフィードバックといった社内の研修に来てもらう。するとより吸収しやすい状態で学びが起こり、1on1の質向上につながるのです。
 
もう1つは、他の人材開発の仕組みと連動させる方法です。ヤフーでは半期に一回、マネジメント層が集まって行う人財開発会議があります。そこで部下の今後のキャリアを皆で話し合うのですが、ここで日頃の1on1で聞いている話や、見て感じていることが活かされます。そして終わった後のフィードバックや、次のキャリアを検討する場としても1on1は活用されます。そこで、新しい仕事をしたければ思い切って異動を考える、といったこともできるのです。このように、1on1が人事施策の中心になり、相互作用が起きるようシステム的につながっています
 
(4)やり続ける
 
この施策は、一度始めたらやり続けるということが重要です。導入後は、反発や形骸化など、様々な壁があると思います。それでも、目的に向かって継続していくことが大事です。
 
ヤフーも当然、ここまで順風満帆にきたわけではありません。まずは部下を多く抱える上司からの反発。「どれだけ時間がかかると思っているんだ」という意見が多く出ました。また、ロジックで物事を理解するタイプの人たちからは「これをやったところで、サービスのKPIがどれくらい変わるのか」と成果が可視化しにくいことへの疑問も出てきました。正直、今もこうした意見は一部で残っていますが、しっかりとした目的と接続されていれば、継続するごとに意味が出てくると思います。
 
一方で、1on1や人材開発が大好きなものの、具体的な成果を出せていない管理職も出てきました。1on1や人材開発に熱心に取り組むことは重要なのですが、本質的なことを理解し、実践できていなければ意味がありませんよね。ここも、アセスメントを交えながら継続していくことで、見えるものがあると思っています。

4. 1on1の本質とはなにか、なぜ必要なのか
 
小金氏:我々が1on1にどういう意味を込めているのか、というお話しです。
 
まず、ヤフーでは「コミュニケーションは頻度」という言い方をします。例えば「私のチームは半年に1回飲み会をしているので、1on1は不要です」というのは、違うと思っています。コミュニケーションは人間関係構築の中心となりますが、その質よりも量を重視するということです。1on1をやる上でよく聞かれるのが「関係性のよくない部下と、どう1on1をやればいいのか」という悩みなのですが、もし1on1をどうしても避けられてしまう場合は、まず毎朝晩、挨拶だけは必ずしてください、毎日一言だけでも声をかけてくださいとアドバイスをします。私自身も苦労した経験がありますが、関係性を作る上で、こういった日々の地道なアプローチが1番の解決の糸口になると思います。
 
次に大事なのは、何度かお話ししている「観察とフィードバック」です。上司が部下をよく観察し、適切なフィードバックを行っていると、部下は内省を促されます。そのうちに、自分ができること、できないことが鮮明になり、自己理解が深まるんです。自分は気づいていないが他人が知っている「秘密の窓」の部分を上司からフィードバックしてもらい、他人の知らない「秘密の窓」の部分を開示していく時間にもなるわけです。こうしたアクションが上司との間にできると、自己と他者の相互理解がどんどん深まる、という効果があります。
 
これが進んでいくと、目の前の仕事に関することだけではなく、その人の価値観や将来やりたいことも共有できるようになります。個人のキャリアを語る上で「Will-Can-Must」という考え方があります。Willはやりたいこと、志。Canはできること。Mustはやるべきことです。この3つが重なる部分が大きいほど、個人のキャリアは充実すると言われていますが、Mustが仕事上の目標だとしたとき、自分のCanが1on1で深まり、Willの話までできるようになると、より「あなたのキャリアを充実させるにはどうしたらよいか」という発想から相互に考えることができるのです。
 
個人のキャリア、生き方が充実してくると、個人と会社が対等なパートナーシップを結べます。これは現代の個人と会社の関係に求められていることだと思います。会社が一方的に社員を利用するのでもなく、社員が会社に寄りかかるわけでもない。自立した社員を育てられる会社というのが、成長できる会社なのだと思います。このことが1on1を通じて育めるものなのです。
 
今、働き方はどんどん変化し、多様化しています。会社における正社員という形だけでなく、契約社員や派遣社員、業務委託などフリーランスの方もいれば、社員で副業をしている人もいます。必ずしも、会社で正社員として働かなくてもよいという選択肢が多い。その意味では、企業には今”遠心力”が相当強まっている時代だと思います。
でも一方で、会社という形だからこそできることもありますし、やる以上果たさなければならない使命もあります。社員のキャリアも大事だけれど、同時に会社の戦略を実行しなければならない。そうした時には、必ずしも個人のことを優先できない場面もあると思います。そんな中でも、会社に関わって一緒に目的を果たしていこうとするには、企業に”求心力”も必要です。遠心力と求心力、これらを高度に両立させるために大事なのが、1on1だと思うのです。
 
ヤフーも、100点満点で実行できているわけではないと思います。それでも「個人の才能と情熱を解き放つ」ことを目指しながら、会社のミッションを一緒に果たし、実現させていきたい。かっこいい言葉に聞こえるかもしれませんが、そうしたよい緊張感の中で仕事をしている限り、企業として何かを成し遂げられるのではないかと思っています。
 
 
5. 1on1の効果を最大化するためのOSとはなにか(21世紀学び研究所 代表 熊平美香)

熊平:21世紀学び研究所では、変化の激しい21世紀という時代を生き抜くため、イノベーションを生み出す人や組織を育てる”大人の教育”についてプログラムを展開しています。日本で、イノベーティブな人や組織が育ちにくいのは、これまでの受動的な教育に原因があるからだと私たちは考えます。そこで、これまでの固定概念を壊し、柔軟な思考と能動的な学びを育てる教育プログラム「OS21」で、大人の学ぶ力を変えてきたいと思っているのです。
 
ヤフーには、ビジョン「UPDATE JAPAN」を完成された後の2016年から、このプログラムを利用いただいています。「自ら考え動く、自律的な組織をつくるためのマネジメント実践法」として、2日間マネジメント層の方に、学ぶ力とリーダーシップの両方を学んでいただくという内容です。特に評価いただいているのは、「個人が自分の価値観を理解し、全社ビジョンとつなげて自分の言葉に解釈できる」という点や、「1on1で個人の話を”価値観レベル”で聞く力が身につくので、メンバー理解が深まり、個性の活かし方がわかってきた」という点です。
 
OS21のベースになっているのは、5つの「学ぶ力」です。①自分の枠を客観視する「認知」②大事な価値観や信念をモチベーションに変える「動機の源」③経験を内省し、成功法則を貯めていく「リフレクション」④違いを尊重し、優劣をつけない「多様性」⑤自分の考えを内省し、他者の考えに共感する「対話」の5つのことで、これをまずは部長の方に学び、取り入れていただいています。ここでは”自律型学習者を育てる”ことを狙いにしているため、指示命令型の組織や管理職の方には向かない方法かと思いますが、ヤフーは自律型組織にしたいという目的があり、かつ組織の上司と部下の関係がフラットな文化も既にできていたので、親和性が高いと思います。
 
私たちは、21世紀の学びは、自分を客観視するところから始まると思っています。OS21の中核になり、ヤフーの1on1で実際に取り入れていただいているのが「認知の枠の4点セット」です。私たちは、過去の経験によってつくられる物事の見方で、目の前のことをとらえます。そのため、同じ情報に触れても、意見が同じにはならないのです。この物の見方のことを、認知の枠(メンタルモデル)と呼んでおり、①意見の他に②経験③価値観④感情という4点をフレームワークで抑えることで、自分のことも他人のことも客観視できる、と考えています。
 
私たちは特に、価値観や感情について語る習慣があまりなく、無自覚になっていることが多いのですが、実はここに、その人の考え・意見を本当に理解するためのヒントが隠されているのです。ですので、1on1で内省・リフレクションを促すことで、経験、価値観、感情についても自覚をしてもらうとともに、相手にも伝えてもらえるようにするのです。上司の方がやってしまいがちなのが、相手の意見を聞くとき、実は自分の経験に当てはめて聞いてしまうということ。部下の話を聞く際には、自分の経験やそれに基づく判断を一度保留し、部下の意見、その背景にある経験、価値観、感情を聞き取ることを大事にします。こうしたワークをずっと行なっていくのです。
 
他にも、個人の動機の源とビジョンの接続を1on1で行う方法やリフレクションについてなど、具体的なお話はたくさんありますが、まずはOS21のベースとなる考えのお話しをさせていただきました。こうした研修は、会社の普段の流れと独立していては意味がありません。ヤフーでは1on1を通じて、日常的に行っていただいていることで、意味あるものになっていると感じます。もしより詳細にご興味のある方は、体験ワークショップを企画しておりますので、ぜひお考え下さい。ありがとうございました。

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