21世紀学び研究所は、「VUCA時代のチェンジメーカーズ 〜チェンジのためのアイデアとツールを知る・使う・学び合う~」をコンセプトにイベントを開催しています。21世紀学び研究所の掲げるチェンジは、善い目的のために、現状とありたい姿のギャップを埋めるチャレンジのことを言います。例えば、パラダイムシフト、イノベーション、組織変革、自己成長などが当てはまります。
チェンジを起こすためには、知識を集積することも大事ですが、それらを使って、他者とともに学び合い、自己のリフレクション(内省)を繰り返すサイクルを深く、スピーディーに回していくことが求められています。チェンジを起こしている、または起こそうとしているチェンジメーカー達をサポートする学びの場として、今後も定期的にイベントを開催していきます。
第1回目として、 8月3日に「人生100年時代の大人の学び ~社会人がキャリアオーナーシップを持ち、自律的学習者になるための5つの学ぶ力~」を開催しました。今回は、リクルートワークス研究所の主任研究員であり、働くことと学ぶことの接続を専門に研究されている辰巳 哲子さんをスピーカーにお招きし、「人生100年時代の大人の学び テクノロジーは個人の学びをどう変えるのか」についてお話いただきました。当日は60名の満員御礼となり、大人の学びについて関心の高さが伺えます。以下、辰巳さんの講演の内容をお伝えします。
<INDEX>
1.なぜ今社会人の学びが話題なのか
2.どのような変化の兆しがみられるのか
3.テクノロジーによって未来の学びはどうなるか
4.わたしたちはどう学ぶのか
リクルートワークス研究所では、テクノロジーの進化により、学習環境もツールも多様化する中で、社会人の学びにどのような変化が今後起きるのかということについて調査研究し、『人生100年時代の学び方』として研究成果を発表しています。NewsPicksにも「テクノロジーで変わるニューエリートの条件」として取り上げられ、高い反響を得ました。
1.なぜ今社会人の学びが話題なのか
社会人の学びについて注目が集まっているのは、背景となる時代変化が大きく影響しています。平均寿命が伸び、職業寿命はおよそ50年と言われています。可能な限り、長く働くことが望まれているのです。終身雇用の時代は終わり、雇用は流動的です。以前は一つの企業でスキルを蓄積すれば通用しましたが、転機が増えるとともに、新たなスキル要請があり、学び直す必要がでてきました。また、ICT技術の急速な進化により、AIが台頭する中で、必要なスキルが日々変化しています。常に更新が必要な状況となっているのです。
そのような時代の中では、生き方や働き方の舵取りを会社ではなく個人が行い、一つの企業に依存しないあらゆる環境で活かせるスキルが必要となるでしょう。リクルートワークス研究所が2015年に実施した5カ国マネージャー調査(望ましい働き方)では、日本はキャリアオーナーシップやポータブルスキルが弱いという結果が出ています。改めて、日本人のマインド変化と学びの在り方が問われているのではないでしょうか。
また、社会人は、どれくらい・どのように学んでいるのかを明らかにした調査では、「自己啓発活動」は30代〜40代にかけ、低下していく傾向があり、問題視されています。(出所:リクルートワークス研究所 古屋星斗 「40代男性、学んでいない人はなぜ学ばないのか?」)
2.どのような変化の兆しがみられるのか
その一方で旧来型の学び方には、当てはまならい人も出始めています。仕事に関連した学び行動について調査をした結果、「詳しい人に指導・アドバイスを受ける」「書籍やインターネット調べる」「研修や勉強会に参加する」に当てはまらない学びを行った人が37%いました。(出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2018」)
学び方が多様になるにつれ、学び始めている社会人が増えているという調査結果もあります。2000年では「最近1ヶ月で新しい知識やスキルを身に付けたり、資格をとるための取り組みをした」と回答した人が16.4%だったのに対し、2017年に「学び行動(新たに知識を身に付ける行為)をしている」に「はい」と回答した人は、は70.7%となっています。この背景には、「学ぶ」という行動そのものが以前は学校に通ったり本を購入したりしなければならなかったのが、今はもっと手軽な学びが主流になってきている。ということがあると考えています。(出所:働く喜び調査(2017)、全国就業実態パネル調査(2016)、ワーキングパーソン調査(2000)、リクルートワークス研究所 辰巳哲子「従業員の学習行動をどのように支援するか」)
学びが手軽になってきているのと同時に、キャリアと学びの関係も明らかになってきています。学ぶこと自体を面白いと感じ、学んだことを活かしたい人は、幸福度や自己のキャリアに対する評価が高く、目標の発見や自己成就的な経験をしています。また、学習の楽しさとより多くの気づきを得られるリターンを求める傾向がある人は、「自分の決断がもたらす結果を考慮する」「自分の将来は自分で決める」ことを強みとする割合が高く、高いキャリア評価につながる学びの根本には、学習者自身が自分のキャリアを管理する「キャリアオーナーシップ」があると言えるでしょう。(出所:カレッジマネジメント,2018,「自主的な学び行動をする社会人の特徴とは何か」)
3.テクノロジーによって未来の学びはどうなるか
すでに既成概念にとらわれない子どもたちや一部の人から学びの形は変わりつつあります。テクノロジーの進化によって学びツールが多様化し、教室はどこへでも持ち運べるようになりました。小さな単位での学びも可能となり、オンライン上の仲間と遊びながら手軽に学ぶ環境が整っています。オンライン授業を取り入れることで、場所、時間にとらわれず⾃分だけの学びメニューをつくることも可能です。テクノロジーの進化によって学習⽅法のバリエーションが増え、⾃分にあった学び⽅を選択しやすくなっています。
既に、働きながら学ぶ学校も存在します。この学校では、主に「学び方」を学びます。それだけ技術の進化が速いためです。学び方を学び、学んだ内容を実際の職場で使ってみる、そのフィードバックを基に学びを修正する、こうした一連の流れを学校に所属しながらやってしまおうというわけです。(出所:リクルートワークスレポート2018 人生100年時代×テクノロジー『「創造する」大人の学びモデル』)
4.わたしたちはどう学ぶのか
これまでの学びは学校や研修、読書などの経験によるインプットが主流でした。これからの学びはアウトプットが重要になります。例えば、書籍を読んだ後で、自分の考えを整理する目的で、アマゾンやビブリオバトル(書評合戦サイト)にレビューする、Facebookやリンクトインでの投稿、⾃主勉強会を開催するなどが考えられます。アウトプットをしさえすれば、レビュー内容について他者からフィードバックをもらうことができます。その結果、修正して再リリースする次回のリリース⽅法に役⽴てるなど、ブラッシュアップが可能となります。目の前のアウトプットに必要な旬のスキルを保有していること、変化に対応し続けるために「学び方を知っている」ことこそが価値になります。働くことと学ぶことを同時進行させるため、日常にアウトプット型の学習機会を増やす方法を整理しておきましょう。
出所:リクルートワークス研究所『テクノロジーの進化によって個人の学びはどう変わるのか』
これまでの時代は、求められることを最短で効率よく課題解決する行動志向型のリーダーシップが求められていました。課題解決のためには、データリテラシーやロジカルシンキングの知識である「外的なスキル」を身につけることが重要でしたが、今後はAIがこれらを担ってくれます。AI時代の人の役割とは、新しい価値を生み出すこと、今までにはない新しいアイデアについて意思決定を繰り返し形にするイノベーションです。社会に新たな価値を生み出すためには「こんな社会にしたい」「そのために自分はこうありたい」という個人の信念やアイデンティティを内省する「内的スキル」が必要となるでしょう。どのような社会を創造したいのか、どうコミットしたいのかということがこれまで以上に問われ、内的スキルをどのように身につけていくかが求められています。
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