今回は、「親子向けリフレクション講座」のご紹介です。LIFULLの社内大学『LIFULL大学』という取り組みの中で、子育てに取り組む親向けにリフレクションの実践方法をお伝えする機会をいただきました。
親子8組に参加いただき、親向けには幼保期の教育やリフレクションについての講義とリフレクションの実践方法の解説を行い、その後、実際にお子さんにも参加してもらい、親子でリフレクションを行いました。お父さん、お母さんが、子どものリフレクションを促し、聴き取ることで、親子の対話も深まりました。
オランダの子どものリフレクション
オランダで、4歳の子どもが先生と一緒にリフレクションを行っている様子を見たことがあります。過去3ヶ月のワークの振り返り、誇りに思うワークは何か、なぜ誇りに思うのか、苦労したこと、次にやるとしたら何を変えるのか、という問いに、子どもは、ちゃんと答えていました。こんなに小さな子でもリフレクションできるんだ!」と本当に驚きました。これが、日本で、リフレクションを広めようと思ったきっかけです。
日本の子どものリフレクション
さらに驚いたことは、ある小学校のPTAの皆さんと一緒に、親子でリフレクションを実践するイベントを行った所、日本の小学生も、オランダの子どもたちと同じように、ちゃんと、リフレクションを行うことができたのです。親も私たちもびっくりしましたが、実は、私たちが、子どもに問いかけていなかっただけで、子どもたちはちゃんと考えているということが解りました。
子どもがリフレクションの習慣を大事にし続けるためには、大人が、リフレクションを理解し、実践する力を磨かなければならない! そう考え、リフレクションを広める活動をしています。
講座の前半部分でお話した、幼保期の教育やリフレクションについてレポートにまとめましたので、ぜひご覧ください。
幼保期・小学校期・教育の重要性
まず、お話したいのは、子どもは赤ちゃんのときから大人になる準備をしている、ということです。
例えば、コミュニケーション能力は大人になる過程の中で、いつ身につけるのでしょうか。オランダでは、子どもは大人になる準備を幼児期から始めていて、幼児の頃から、しっかりとコミュニケーション能力を身に着ける訓練をします。現在は、大学で、コミュニケーション能力を磨くことが期待されている様子も伺えますが、本当は小さい頃から準備する方が望ましいのだと思います。
また、リフレクションを広める活動を通して、大人になった個人の人格形成に小さい頃の経験が、とても大きな影響を与えていることに、いつも驚かされます。子どもの時に経験したこと、出会った人たちとの関わり等のすべてが、大人になる準備であると考えた時、親だけでなくすべての大人が、子どもの育ちに大切な役割を果たしていることに、意識を向けることが大切なのではないかと思います。
数年前から未来教育会議という活動を行っており、そこで「人の一生の育ちレポート」を有識者の方々の協力を得て作りました。よかったらぜひご覧ください。
オランダやデンマークでは、人の育ちが非常にスムーズであると感じます。しかし、日本の教育は、それほどスムーズではないように思います。
人の育ちがスムーズであるということを、未来教育会議では、以下のように定義付けました。
まず幼児期だと、「自分は自分でいい」という行動主体の主体性の感覚を確立し、自己肯定感をしっかりと持つことが土台となります。そして、小学生になると、「自分たちのことは自分たちでできる」という、他者や社会との関係における基盤が確立されるという主体性が育ちます。さらに、中学生では、社会に参加しているという感覚を持ち、高校生では、世界を変えられるという感覚を持ちます。そして、大学生では知を創出できるに進化し、社会人になったら「私が私と世界を幸せにする」という考えをもちます。
このプロセスを大人に伝えると、「人一生の育ちマップの下の年齢を消した方がよい」と言われることがあります。「大人でも大学生でも、まず「自分は自分でいい」という考え方から始めないといけない人もいるんです」と言われます。このような意見を聞くと、周囲の大人や社会が、子どもたちの育ちを先へ、先へと急がせるために、本当にそのタイミングで確立しなければならない育ちを見逃しているのではないかと思います。
小学4年生くらいまでは、学校でも家庭でも、大人が子どもを簡単にコントロールできますが、小学校の4、5年生になると、だんだん大人の思い通りに子どもを動かすことが難しくなります。いじめの問題も、幼児期や小学校の低学年では、先生が介入し、問題を解決することができても、4、5年生になると、先生が介入し問題を解決することが難しくなります。そして、中学校になれば、問題はより深刻化します。そうならないためには、幼児期から、子どもたち同士で、人間関係の問題を解決する練習を始め、その力を磨いておくことが大切です。このため、オランダでは、幼児期から、対立を話し合いで解決する練習をはじめます。しかし、日本では、幼稚園や保育園で、「〇〇ちゃんが痛いって言うから、謝ろうね」と大人が介入している様子がみられます。大人にとっては、とても小さい介入かもしれませんが、その介入が、子どもの自立や主体性を育む阻害要因になっているのではないかと思います。日本の親や大人は全般的に過保護だと思います。子どもが、その時々の経験を通して、今、何を育んでいるのか、子どもに関わる全ての大人が、しっかり見極めていくことが大事です。
子どもの発達
計画を立てて何かを遂行する能力は、4~5歳までの間に急激に成長し、小学6年生の段階でほぼ大人と同等になるという研究結果がハーバード大学のこども発達センターから出されています。小学生と大人では、知識のレベルには大きな違いがありますが、遂行能力に関しては、小学生の段階でほぼ大人と同じだということがわかります。
私たち大人は、子どもは守ってあげなくてはいけない存在だと考えがちですが、「子どもは自立した個である」という認識を持つことが大切なのではないでしょうか。
非認知能力を育む
オランダのシチズンシップ教育では、心を育むことにかなりの時間を費やします。そして、心を育む活動を行っていると、心を育むと学力は上がるのかと尋ねられことが多いです。その際には、いつも、このようにお答えしています。「幼少期に大事なのは、学力よりも心です。心を育めば大きくなってから、自らの意志で学ぶことができます。幼児期は、大人が勉強しなさいと言えば、子どもは勉強するかもしれませんが、やがて、大人が子どもを支配することができなくなると、勉強を止めてしまう可能性が高いです。自らの意志で勉強する子どもを育てるためにも、幼児期からの心の育ちが鍵を握ります」
最近では、非認知能力という言葉を聞く機会が増えました。学力は、認知能力で、心は、非認知能力です。非認知能力に関する研究結果では、非認知能力を育むことで、認知能力を伸ばすことができると報告されています。こちらの図をご覧いただくと、自己認識、自己管理、社会意識、対人関係スキル、意思決定が非認知能力に含まれることが解ります。自分が何をやりたいのか、何を大事にしたいのか、自分が何を通して社会に貢献したいのか等々は、非認知能力の領域になります。
心が育まれていなければ、知識がいくらあっても、良い人生の選択もできません。幸せな人生を生きるためには、非認知能力を磨く必要があります。日本では心を育むというと「思いやりをもつ」など狭い範囲で語られることが多いですが、非認知能力の範囲を正しく理解し、子どもたちの心を育むことが大切だと思います。
真の民主性は対立に基づく
オランダからシチズンシップ教育「ピースフルプログラム」を日本に紹介し広める活動しています。オランダは市民力が高く、一人ひとりに主体性があるのですが、どのように主体性が育まれたのかをその教材から学びました。
ピースフルスクールで学んだ大事なことの一つは、当たり前の事ではありますが、自分の意見を持つことが主体性の始まりだということです。その結果、必ず他の人との意見の相違が生まれます。ピースフルプログラムでは、自分の意見をしっかりと持つことを5歳から練習します。お友達の意見には「賛成・反対・わからない」とちゃんと表明する責任があるのだということを子どもたちは知っています。また、「意見は違っても友達でよい!」ということも、同時に学びます。
日本でもダイバーシティを推進する動きがありますが、そのためには、多様性の存在は対立を前提にしているという認識を持つことが大切です。友達と仲良くするということと、意見が違うということは別物という感覚がなければ、だれも、主体性を持つことが許されなくなってしまいます。
ピースフルプログラムでは、子どもたちは、意見には理由を必ずつけて説明する責任があることを学びます。親子の会話でも、意見に理由を添えるコミュニケーションを持つことを強くお勧めしたいと思います。お子さんが意見を言ってきたときは、「どうしてそう思うの?」と聞いてあげるだけで、自分の頭で考える子どもに育ちます。
英語だと、意見には理由を付けるのが当たり前ですが、日本語は、意見に理由をつけなくても意見を言ったことになることが言語的な特徴でもあります。しかし、主体性を育む上では、日本語的な言語活動では不足だというのが、ピースフルスクールでの学びです。
ピースフルスクールでは、感情を言葉にすることも大切にしています。「自分の気持ちを知ること」「自分の気持ちを言葉で伝えること」「感情をコントロールすること」この一連の流れを幼児期から、子どもたちは訓練しています。自分の気持ちを正しく理解することができて、それを言葉で他者に伝えることができれば、他者の気持ちも理解し易くなり、心と心が繋がるコミュニティをつくることも容易になります。日本では、私たち大人も、まず他者の気持ちを思いやり、自分の気持ちを横に置くことが多いように思いますが、自分の気持ちを理解し、扱えるようになることが、他人を思いやる上で土台となる力であるということも、大きな気づきでした。ぜひ、親子の会話でも、出来事の話だけでなく、気持ちについても、語り合う習慣を持つことをお勧めします。
今、世界の教室では上の図のような指標を使用して、主体性を育む教育が始まっています。
家庭での子育てにも応用できる考え方だと思います。すべてのことを、子どもたちが自由に行うことがよい訳ではありません。大人が考えて決めること、子どもと一緒に決めること、そのどちらなのかを親が決めて、子どもに伝えることが大切です。家庭の教育方針は親が決めるものですが、その場合でも、ちゃんと理由を説明することは大事です。子どもと一緒に決めることができるテーマに関しては、ぜひ、一緒に、話し合って決めるという経験も積ませてあげてください。