活動報告

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カオスの時代に必要な「自我の確立を支援する教育」 株式会社LIFULL 代表取締役社長 井上さんインタビュー

井上さん写真

21世紀学び研究所の創立メンバーであり、株式会社ネクスト代表取締役社長の井上高志さんにインタビューを行いました。

─現在力を入れていらっしゃる活動を教えてください。
弊社(株式会社ネクスト)の経営の中では、2025年までにグループ会社を100社にし、サービス展開国数を現在の51カ国から100カ国へと目指します。グローバル事業を加速していくにあたり、今年4月に社名を「NEXT(ネクスト)」から「LIFULL(ライフル)」に変更します。弊社の基幹事業、不動産・住宅情報サイト「HOME’S」も「LIFULL HOME’S」にサービス名称を変更していきます。それに合わせて、本社も移転します。築48年の古いビルを丸ごと一棟借り上げて、フルリノベーションをしていきます。

これまでは「HOME’S」という主力事業が色の濃い企業でしたが、これからは「LIFE」+「FULL」で「あらゆる人々の暮らしを満たす」という意味を込め、世界中の人々のありとあらゆる生活シーンが満たされるサービスを国内外で展開していきます。弊社が最も大切にしている価値観「利他主義」を貫き、社会の変革に挑戦するためには、大きな桁替えが必要だと考えています。会社が設立20年を迎えたところで、ステージを上げる大きなタイミングだと感じていました。自分の周りのすべての人を笑顔に、HAPPYにするために、事業を通じて革進を続けていきます。

会社以外の活動として言えば、「利他主義」を世界中に広げるために、「NEXT WISDOM FOUNDATION」という財団を立ち上げ、100年後の未来をどのようにデザインしていくか、古今東西の叡智を集め、社会に活用できる土台をつくる活動をしています。また、「21世紀学び研究所」では理事として、この変化の激しい時代にゼロベースから人をどのように育成していけばよいかを考え、実践しています。

─井上さんがこれらの活動に注力されているのは、理由があるからだと思うのですが、社会のどのような点に問題を感じ、どんな未来を実現したいからですか。
「LIFULL」に関しては、グローバル展開をする上で、「ネクスト」や「HOME’S」では社名やサービス名称に使えない国々があるので、「利他主義」をより的確に表現する造語「LIFULL」でグローバルカンパニー化させていきたいと考えました。100社のグループ会社を目指す目的は、100人の経営者をつくり、様々な分野でより良い社会へと革進していくチェンジメーカーを育てたいということです。結局は経営者をやらなければ真の経営者にはなれません。中央集権的な巨大組織にしてしまうと、経営者は1人しかいません。しかし、数多くのグループ会社をつくることで、たくさんの経営者がそれぞれの志をもとに世の中を変えていくことができます。一人ひとりが自分を活かし、志を持って社会課題に取り組んでいく、そういう集団をつくりたいのです。

「NEXT WISDOM FOUNDATION」を通じて目指しているのは「世界平和」で、人類すべてが幸福になる社会です。これは何か処方箋を1つ使えば解決するというほど簡単なことではありません。現代の社会は混沌としたカオスのような状態で、何から解決していけば良いのか、非常に見えづらくなっていると思います。そんな現代社会の課題を紐解き、解決していくには古今東西の叡智(WISDOM)が必要です。私たちは組織や事業、学問などにおいて、どうしても縦割りになりがちです。しかし、自分の領域に留まった考え方で問題を捉えるのはもはや難しいでしょう。横断的に複数の分野にまたがり、数々の叡智を統合することで多様な人と一緒に解決策を見つけることが必要だと思っています。そして未来のために、100年後の世界をより良いものにすべく行動を起こしていきます。
井上さん写真
─「21世紀学び研究所」に共感されている理由を教えてください。
経営者や親の立場から教育や人づくりに関わる中で、教育とは、「自我の確立を支援することである」と定義しています。一人ひとりが持つ異なるアイデンティティを確立し、志を持って夢を叶えるために成長していく、そうした人を育む必要性があると感じています。きっかけは自分に子どもが出来たこと、アフリカのベナン共和国に小学校を寄付する機会に恵まれたこと、採用活動でたくさんの学生に会い、日本の教育に危機意識を持ったことなどが理由です。社会を変革する多くのチェンジメーカーを生み出すためには、人づくりが非常に重要で、教育の在り方を見直す必要があります。人づくり=国づくりです。子供の頃からセルフエスティームを人間のOSとして身につけ、自己肯定感を持ちながら、自己決定ができ、自己責任を負える人が増えれば、社会をより良くする原動力になります。こうしたことを模索している中で、代表理事の熊平さんと出会い、OS21のコンセプトに非常に共感しました。そこで同じ考えを持つ品川女子学院の漆校長と3人で21世紀学び研究所を立ち上げました。

─すべての人が幸せになる社会を実現していくために、具体的にはどのようなことに取り組もうとされていますか。
以前、幸福学の研究をされている慶應義塾大学大学院教授の前野先生の話をお伺いし、「人の内面×社会システム×テクノロジー」の掛け算で革進していくと幸せな社会を実現できそうだという気付きを得ました。人の内面とは、幸せのメカニズムを起点に発想しています。人の幸せは4つの因子で決まることがわかったそうです。「あなたらしく」「やってみよう」「なんとかなる」「ありがとう」という4つです。これは私が考えていたことと深くつながりました。自己肯定、自己決定、自己責任というセルフエスティームを持って、成功するかは分からないけれどやってみよう、人と比べるのではなく自分の信念に従っていこう、壁にぶつかっても何とかなると試行錯誤し、最後にあらゆる人や環境にありがとうと感謝する気持ちがあれば、人の内面は幸福感で満たされるのではないでしょうか。こうした人の内面を満たす「幸せのメカニズム」を多くの人が知ることが大切です。

社会システムについては、資本主義という経済体制や、日本の公教育の在り方など、様々な社会構造・ルールを変えていくことを考えています。一人でできることには限界がありますが、社会システムを変える団体をつくり、皆で協同していけば政治や業界へもアプローチすることができます。さらにそこにテクノロジーを用いて影響力を拡大していけば、あらゆる人が幸せになる社会を実現できると考えています。

─今の日本の教育や人材育成の課題はどのようなことだと思われますか。
日本の教育はテクニカルスキルだけを詰め込む教育になっているのではないでしょうか。教育には自我の確立が大切だと思っていますので、それを無視し、同じ年代の子を同じ教室に入れ、暗記できた者から順に良い点数を与えていく画一的な教育に違和感を覚えます。教育だけ古い価値観から抜け出せず、決まった仕事をただ効率的に行うビジネスマシーンを作っているような感覚です。人は本来自分の興味関心がわかれば自主的に学んでいきます。例えば生物に興味を持った人が、顕微鏡を覗き、もっと生物のことが知りたいと図鑑を調べ、生物の進化を研究していくようになるのは自然なことでしょう。これは、テストで点数が欲しいからやっているわけではなく、自分の興味関心のまま学んでいる状態で、まさに自我を確立する状態だと思っています。

自分たちの教育もそうでしたが、生活の中で微分積分、円周率を必要としたことなどほとんどありませんよね。無理やり詰め込まれた学問をやりたいとは思わないのです。一人ひとりの個性や特性を無視して、合理的に一定レベルに引き上げようとしたのが今の教育の問題点ではないでしょうか。

─井上さんから見て、企業のリーダーや親はどのような課題を持っていると感じていますか。
企業のリーダーも親も古い20世紀型の呪縛に縛られている感じがします。経営者で言えば目標が「利他の最大化」ではなくて、「利益の最大化」になっているイメージです。利益の最大化のみが目的になると、人づくりにおいても生産性の高いロボットを育てるほうがよいことになってしまいます。そうした企業で育成リーダーになると、人の内面は見ず、いかに効率的に売上に貢献させるか、というトレーニングになっていきます。経営者も何のために企業が存在するのかを伝えず、利益の最大化だけを追求しているようでは、当然従業員も同じ考えを持つようになります。

親も我が子を幸せにするには「いい学校に行かせなければいけない」という呪縛に縛られているのではないでしょうか。難関校に行かせたものの、やりたい事がない若者は社会人になり心が折れてしまうことが多いです。つまり、企業のリーダーも親も悩んでいることは同じで、本質的にどうしたらいいのかが見えていないということです。どうなったら人は幸せになるのかを、自分で考えず型に当てはめて考えている人が多いと感じます。どういう方向に進み転んでも、自分らしく生き、その中で成長できれば良いと私は思います。多くの経験をし、学ぶことで、いずれ根が張り、葉をつけて広がるはずです。そこに個人の価値観を活かして、幸せに向かって生きて欲しいと思います。20世紀は高度成長期を経て、世界中が右肩上がりの経済を求めて進化につながりましたが、もちろんこれは必要なことでした。その時大切にしていた価値観は、お金やマイホームなどの物質的なものでした。当時の社会システムと求められる教育は一致していましたが、ご存知の通り既に社会は変わっています。しかしながら、教育システムが変わっていません。これからはOS21のような新しい教育の在り方が必要になってくると思っています。

理事
井上 高志
株式会社ネクスト 代表取締役社長
新卒入社した株式会社リクルートコスモス(現、株式会社コスモスイニシア)勤務時代に「不動産業界の仕組みを変えたい」との強い想いを抱き、1997年独立して株式会社ネクストを設立。インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指し、不動産・住宅情報サイト『HOME’S(ホームズ)』を立ち上げ、掲載物件数No.1のサイトに育て上げる。
2011年からは、海外進出を開始し、2014年には世界最大級のアグリゲーションサイトを運営するスペインのTrovit Search, S.Lを子会社化。現在は、国内・海外併せて13社の子会社を展開し、世界51ヶ国にサービス展開している。
日本のみならず世界で情報インフラの構築を進め、国籍や言語に関わらずスムーズに住み替えができる仕組み創りを目指す。
座右の銘は、ネクストの社是でもある「利他主義」。究極の目標は「世界平和」で、事業活動を通じて、「不安」「不満」「不便」といった社会に存在する「不」の解決を目指す。ネクストの事業の他、個人でもベナン共和国の産業支援プロジェクトを展開し、一般財団法人Next Wisdom Foundation 代表理事、一般社団法人デモクラティアン 代表理事等を務める。

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