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【第3回イベントレポート】「イノベーションを起こすために必要な学びとは」慶應SDM 前野隆司氏

21世紀学び研究所は、「VUCA時代のチェンジメーカーズ 〜チェンジのためのアイデアとツールを知る・使う・学び合う~」をコンセプトにイベントを開催しています。

 

第3回目として、2018年10月31日に「イノベーションを起こすために必要な学びとは」を開催しました。ゲストは、幸福学の研究でもおなじみの慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科(以下=SDM)委員長・教授 前野隆司氏です。SDMでは、これまで分野ごとに学びを細分化していた壁、産官学の枠を取り払い、多様な人々が社会課題の解決やイノベーションを起こすための試みを行っています。その鍵となるのは、大局観に立って物事を考える”システムデザインマネジメント”という手法と、老若男女あらゆる年齢、職業、考えを持つ”多様性”のある環境。本回ではなぜこれらがイノベーションを起こすために必要なのかを説くとともに、前野氏の専門分野である『幸福学』との関連から、イノベーションの条件と幸福の条件の類似性についても教えていただきました。

 

また21世紀学び研究所からは、システムデザイン・マネジメントという考え方を活用する上でベースとなる力の1つ”認知の枠の4点セット”についてもお話しします。

 

<INDEX>

1. イノベーションに必要なシステム思考、デザイン思考とは

(慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究科委員長・教授 前野隆司氏)

2. アイディアを受け入れる”多様性”が破壊的イノベーションの鍵

3. 幸せの条件とイノベーションの条件は近しい

4. イノベーションを起こす人と組織に必要なOS(21世紀学び研究所 代表 熊平美香)

 

 

1. イノベーションに必要なシステム思考、デザイン思考とは

 

前野:「イノベーションを起こさなければいけない」という言葉はよく聞きますけれども、皆さんは日本の課題とは何だと思われますか。僕は、特定の分野で改善を重ねることはできても、全体を俯瞰して物事を捉えることができない点にあると思います。日本人は細かいところに緻密に取り組む教育ばかり受けてきたために、大局的に物事を捉え最適解を導き出すのが苦手になったのではないでしょうか。でも今世界中で明らかになっている問題は、あらゆる要素が絡み合っている複雑なものです。

ではどうすれば、そんな中でイノベーションを起こせるのか。まず起きている問題を”システム”として捉えられるようになることが大事だと思います。ここでいう”システム”とは、情報システムという意味ではありません。物と物、部分と部分が相互作用しあって全体を作っている、広義でのシステムを指します。つまり物事を全体として見て、最適の答えを導く方法を確立するということです。そのためにSDMは10年以上前から、システム思考やデザイン思考というものを中心に扱いながら世界中の機関と連携し、研究を進めてきました。

システム思考とは、課題をシステムとして横断的に捉えつつも、緻密な問題にも目を向ける「木を見て森も見る」思考法です。アメリカでは、宇宙開発など、部品点数が数万個、関わる人間も100人単位で、10年がかりで成し遂げるような大規模な課題解決に使われています。ざっくりいうと、主に東海岸にあるボストンやニューヨークといった地で発展しています。もう一つのデザイン思考は、どちらかというと西海岸が発祥の地で、スタンフォード大学が有名です。0から全く新しいものを作るという発想です。UberやAirbnbといったサービスは典型ですね。大規模なものは東海岸に任せておいて、こっち側では全く新しいもの、人類史上なかったものを0から作ろうよということをやっているわけです。SDMでは、両方の要素を基盤に、ゼロからの発想で物事を考え、固まってきたら大局から複雑な課題を解いていくという手法を用いているわけです。

 

とはいえ、アメリカで生まれたシステム思考、デザイン思考をそのまま日本に持ってきたとしても、そう上手くいくわけではありません。デザイン思考はブレインストーミングで次々とアイディアを出していき「Wow!」なんて言い合いながらアイディアを出していくような手法ですが、正直日本人にはそんなに向いていないやり方だと思います。ですので我々は、システマティックに型にはめながら、徐々に型を破るという、やり方の型を作ったんです。矛盾じゃないんですよ(笑)。やり方は型にはまっているけど中身は自由、という手法を開発したんです。詳細はSDMで丁寧にご説明しますが、例えば「収束・発散・インサイトの3つのパターンをきちんと守ってください」なんて言います。発散の時には、ネガティブな事は絶対に言わないでくださいねとか。これをいうこと自体が少々ネガティブっぽいのですが(笑)、そうすることによって日本人もちゃんとイノベーティブなアイディアを出していけるような形を作っています。また、室内であれこれ考えるのもいいけれど、まずは世の中で何が必要とされているのか、外に出て、見に行こうよということにも積極的です。そしてディベートやディスカッションばかりしていないで、質より量でたくさんアイディアを出す。何かを作る上でも、とにかくフェイルファスト、つまり失敗するなら早くする、世に出してダメだったら引っ込めて、また次の展開に次々と進んでいこうという、デザイン思考のやり方も多く取り込んでいます。今は市場の変化が速いので、合理的に考え抜くよりも、とにかくやってみてだめだったら切り替えるという方が潮流にあう場合も多いんですね。いわゆるユーザー中心のものやサービスに関するイノベーションを起こす上では、こうした手法を身につけることが必要だと思います。

 

2. アイディアを受け入れる”多様性”が破壊的イノベーションの鍵

 

では、今必要とされているイノベーションと、これまで日本で起きてきたイノベーションとでは、何が違うのでしょうか。例えば日本のものづくり企業が行ってきたのは、現場で改良に改良を重ねていく、持続的イノベーションです。高度成長期にはこうした地道なイノベーションが実を結んで、世界を唸らせるような良質の製品が生まれてきたわけですが、時代が変わってもイノベーションの生み出し方は大きく変化できていません。その結果「そんな機能使わないよ」という過剰品質になるまで改良を重ねる、という事態になりがちです。これは、企業内にいるプロ集団の常識の中だけで物事を考えていると起こります。これまでの持続的イノベーションの成功体験に基づいてものごとを考えてしまうので、次の新しいイノベーションに乗り移れないのです。やがて新しく力をつけてきた企業に市場をどんどん奪われ、最後は潰れてしまうというケースもあります。これがイノベーションのジレンマです。

 

では、もっと破壊的なイノベーションを起こすために、どうしたら全く新しいことにチャレンジができるのでしょうか。SDMの特別招聘教授を担っていただいている、ビジネスデザイナーのZIBA濱口秀司さんによると、イノベーションを起こすアイディアに必須な条件は次の3つだというんです。

1.見たことも聞いたこともないこと

2.実現可能であること

3.物議を醸す(賛否両論である)こと

 

ここで特に注目なのは、3つ目の「物議を醸すこと」です。例えば大企業で、賛否両論の意見が出てきたらどうなると思いますか。「いやいや、若造だな、話にもならない。もっと勉強してこい」といって却下されるイメージがありますよね。でも実際、新しいイノベーションを起こすようなアイディアは、賛否両論になるものなんです。濱口さんの発明の1つに、私たちがいつも使っている”USBメモリ”があります。彼がDELLからアイディアを依頼され、USBメモリの構想を話した時、最初相手は全員反対だったそうです。「USB端子の使い方として間違っていますよ。この端子は、外部の機器を間接的にコードでつなぐためのものですよ」「PCの真後ろにメモリを挿すなんて、不便でしょうがない。PCの横に持ってくるなんて仕様変更、コストもかかる」という反応だったとか。今では当たり前の存在になったUSBメモリのようなものにも、こんなストーリーがあるんですね。

こうした大企業病が起こってしまうのは、先ほども言った通りプロ集団だからなんです。社内でブレインストーミングをする時、どんな雰囲気になりますか。同じ部署の機械エンジニア同士や、営業の人同士でやると、皆経験者ですから、アイディアの質は比較的高いものが揃います。しかしその分、一見バカバカしいアイディアは出にくいですし、仮に出たとしても見極められずにカットしてしまいがちなんです。

このジレンマから抜け出すには、どうすればいいのか。キーワードは”多様性”です。素晴らしいアイディアなのかばかげたアイディアなのか分からないのなら、もっと多様な人が集まって、様々なアイディアをまず認めるというポジティブな発想が必要なんです。老若男女、素人からプロまで多様なメンバーが常識の枠を取り去って、どのアイディアも1回テーブルの上に乗せてみて、全部吟味してみる。科学誌サイエンスに2010年に掲載された研究成果でも、チームでの協働によって知的パフォーマンスは向上すること、しかも参加者の知能には依存しないことが示されているんです。SDMでも20代から60代までの年代の人が集い、ビジネス経験のある方はその業界がメーカー、サービス業、シンクタンク、金融、建築、マスコミ、コンサル、省庁、教育、経営者だったりと多岐にわたっています。医者の方や、お笑い芸人の方もいらっしゃいますね。また国内外の大学問わずに連携を強め、院生は海外の教授のもとで研究を行う人もいるほどです。いろんな人が一緒になって学ぶという、非常に楽しく刺激的な場ができています。こうした多様性が新しさを生むんですね。でも大事なのは、多様性のある人が集まるほど意見も幅が広く、受け入れられる余地もあるということです。ですので例えば今皆さんがいる会社でも、新入社員が一見ばかばかしいアイディアを出したときに「この新入社員の賛否両論のアイディアは、もしかしたら素晴らしいかもしれない」と思う柔軟性があるだけで、違うものとなるはずです。

まとめると、イノベーションを起こしていくためには、必要な思考方法を身につけること、そして多様な人が集まり、つながって創造性を発揮する”協創”の場を作ることが大事です。そしてどんなアイディアでも出し合い、まず受け入れるポジティブマインドも必要だということですね。

 

3.幸せの条件とイノベーションの条件は近しい

 

ところで、これらのイノベーションが起きる条件は、実は”幸せの条件”に似ているというのはご存知ですか。私はこの10年ほど”幸せの研究”をやってきていて、人はどういう条件を満たすと幸せを感じるのか、研究を続けてきました。するとその結果、次の4つの因子を満たすと人は幸せを感じられることがわかってきました。

まず1つ目は、成長と自己実現を遂げる”やってみよう因子”です。創造性を発揮できていたり、いろいろな条件をつけずに「まずはやってみよう」と言える人は幸せなんですね。2つ目は、つながりと感謝。”ありがとう因子”と呼んでいます。他者とのつながりを持っていて、感謝ができることです。ここで大事なのは、他者とは自分と全然違う人も含め、多様な人と繋がっているということ。似たような人とばかり繋がっているよりも、幸福度が高いといえます。3つ目は前向きで楽観的であること。”なんとかなる因子”です。そして4つ目は、独立していてマイペースであること。”あなたらしく因子”と呼んでいます。

これらを見ていくと、イノベーションの条件と似ている気がしませんか。まずはやってみようとポジティブに思えること。多様な人と繋がること。周りから何を言われても、どうにかできると思えること。反対されようとも、実現するんだと思えるマイペースさ。これらを持ち合わせていると、幸せになれると同時にイノベーションを起こしやすくなるわけです。つまり、幸せである人はイノベーションを起こしやすいとも言えますし、逆も言えると思います。実際、イノベーションと幸福度、多様性や創造性、ポジティブさ、独自性といった項目については、各々非常に相関が高いことがわかっているんです。ですから、幸せな人は創造的であり、もし皆さんの会社が今イノベーションを起こせていないとしたら、それは皆さんが幸せな状態にないということかもしれません。こうやって聞くと、幸福度を追求して行くことも大事だと思えますよね。

「幸福度とパフォーマンスの関係」という、ハーバードビジネスレビューにも掲載されたデータでは、幸せな人は創造性が3倍、生産性も31%高く、売上も37%高いという結果も出ています。また、幸せな人は欠勤日が少ないというのも特徴です。そうすると社員が幸せを感じられている企業は、イノベーティブになりうると同時に生産性が高いと言えるんです。だから働き方改革をするんだったら、無駄を排除する方向にいくのではなくて、一見無駄に思えても、企業内に創造性を発揮できるような土壌を作ったり、多様な人間関係づくりをした方がいいと思いますよ。創造性が3倍で生産性が30%UPしたら、10時間の仕事が7時間で終わるわけですから、結果として残業も少なくなる。そういういいサイクルができていきますよね。だからこれからは”従業員幸福度”を高めるということに注力すると、イノベーティブで、Well-Beingな働き方につながると思います。

 

4. イノベーションを起こす人と組織に必要なOS(21世紀学び研究所 代表 熊平美香)

熊平:皆様は前野先生のお話を受け、どんなことが印象に残りましたか。まず思い浮かべてみてください。おそらく、人によって異なる回答が出てくると思います。次に、なぜその部分が印象に残ったと思うか、関連する過去の記憶がありましたら思い出してみてください。例えば「多様性がイノベーションを起こす鍵」という部分が印象に残った方は、もしかすると過去に指示命令型の組織にいて大変だったご経験があるのかもしれません。このように、意見の背景には何かしらの”経験”があると思います。そして、意見と経験を並べると、そこからご自身が大切にしている”価値観”やそこに紐づく”感情”が見えてきます。先ほどの例えで言えば「指示命令系ではない新たな組織形態が広まるべきだ」というご自身の価値観が見えたり、「ピラミッド型組織の限界を感じ辛かった」という感情が出てくるかもしれません。

 

ワーク:「前野先生の話を聴いてもっとも印象に残ったことは何ですか」という問いについて

  • 印象に残ったことについて「意見」をまず記入する
  • その意見に関連する過去の「経験」(知っていることも含む)について、思い浮かべ記入する
  • 意見、経験を並べたときに見えてくる、あなたが大切にしている「価値観」を記入する
  • 意見、経験にはどのような「感情」が紐づいているか思い浮かべ、記入する

 

このように皆さんが持つ”意見”とその背景にある”経験”、経験によってできた”価値観”や生まれた”感情”を、私たちは”認知の枠の4点セット”と呼んでいます。前野先生のお話にもあったように、複雑な問題解決・創造的イノベーションを起こすためにはシステムデザインマネジメントと呼ばれる思考法が有効だと考えているのですが、この思考をするために必要な土台=OSの一つが、認知の枠の4点セットだと位置付けています。学習する組織について学んでいる方はメンタルモデルという言葉でご理解されていると思います。このツールを通して、自分の意見についてリサーチし認識することができるわけです。先ほど、多様な意見を受け入れるための「柔軟な思考」と言うワードがありましたけれども、なぜ人は柔軟な思考にならないのかと言うと、経験によって培った考えがあって、そこには「これが大事なんだ」という価値観が紐付いているからです。ですから、それを手放したり、他の意見からも吸収していくためには、まず自分の考えがどのように出来上がってきたのかを知る必要があると思います。

またイノベーションを起こすには「多様性があればいいよね」では終わらず、それが最終的に融合していくことが鍵となります。その時に大切なのは、対話ですよね。対話というのは、意見を交換するだけではなくて、その意見の背景を考慮することにポイントがあります。意見が違う事そのものよりも、背景にある経験や価値観が実はその人がもたらす多様性の価値の最も中心部分になっているのです。そしてお互いが自分の知らない世界を取り込んでいく機会というのが対話です。自分自身の背景を共有していくためにもこの認知の枠の4点セットが必要になるということです。

 

私たちは認知の枠の4点セットで対話をすると、結果的に一人ひとりの価値観のアップデートが起き、それがイノベーションにつながると考えて、このプログラムをやらせていただいています。今回はOS21のOSの中でも、”認知”と”対話”をメインでお話させていただきましたが、他にも”動機の源””リフレクション””多様性”というキーワードもありますので、またお伝えする機会を作りたいと思います。

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